第12話 整いたい

 まず、字を覚えることにする。


 娼館に売られただけあって字を読めたり書けたりするものはいない。覚えるのに苦労している。


 ちなみにオレに賛同した女性陣は七人。ミルシーヌさんは抜けるとして三人はもう娼婦はしたくないと、安くてもいいから灰竜族の館で下働きになることを選んだ。


 そんな選択もよし。君たちに幸あれ、だ。


 ただ、賛同してくれた七人も全員が娼婦をやるわけじゃない。ルージュリン──ルーは、この国の言葉がしゃべれないのでオレのお守り(秘書)をやってもらうことにした。この歳で一人歩きは危険みたいだからな。


 文字は一朝一夕で覚えられるものではないので、自分の名前、町の名前日時生活で使うもの名前を読み書きできたら運動を始める。


 アレは運動だ。体が鈍っていたら体に悪い。バランスのよい食事と適度な運動を行い、オレの創造魔法でチチンプイ。あんたら誰よ? ってくらいナイスバディーになってしまった。


 ……なんか改造してしまった感が否めないな……。


「ここまで変わるとはな。なにをしたんだ?」


 数十日振りに帰って来たラウルが驚いている。ちなみにミルシーヌさんもラウルの嫁候補として混ざっております。


「適度な食事と適度な運動。心穏やかな生活を送らせたまでだよ」


 創造魔法はちょっとしたスパイスです。


「兄者、お帰りなさい」


「誰だ?」


「ハルガですよ」


 変わり果てた弟に絶句。てか、DNAが仕事してんよな。ラウルに似てるよ。体つきは細いけど。


「ラウル様、お帰りなさいませ」


「誰だ?」


 もういいよ、それ。変わったからって声でわかれや。天丼か。


「あとで話があるから時間をとってよ」


「また要望か?」


 渋い顔をするラウルさん。わかってるぅ~。さむずあっぷ!


「……わかった。ゆっくり時間をとろう」


 理解が早くて助かります。あ、でも、オレまだ子供だから夜遅くは止めてね。


 その辺を汲んでくれたようで夕食が終わったら自分の部屋に呼んでくれた。


「ミルシーヌさんと一緒の部屋だったんだ」


 他人の秘め事に興味はないんで気にもしなかったが、ミルシーヌさん、ここにいたのね。なんか新婚さんへい、らっしゃい! みたいな空気に満ちていた。


「はい。ありがたいことに」


 はにかむように笑った。ラウルはこういうところに惚れたんだな。色男め。


「……なにかしたのか?」


「嫌な記憶を和らげておいた。今の姿は少女の頃の性格だと思う。ラウルさんはこれにやられたんだね」


 ほんと、なんの純愛物語なんだか。幸せにしろよな。畜生め。


「……感謝する……」


「気にしなくていい。お願い事がたくさんあるしね」


 このくらい安いもの。望むなら娼館にいた頃の記憶を丸ごと消して都合のいい記憶を植えつけてあげるよ。


「なにが望みだ?」


「風呂を作りたい。お金と職人を用意して」


 まだ気温が高いから水浴びでもいいが、ここにも冬はあるみたい。寒くなる前に風呂を作っておきたいのだ。あと、サウナも作りたい。


「あ、頼まれていた解毒薬と毒浄化する腕輪を渡しておくよ。致死量だと効果あるかわからないから気をつけてね」


 毒のサンプルはもらって腕輪に記憶させ、それが体に入ったら浄化するようになっている。それ以外は解毒薬を飲んでください。すべての毒を浄化するように創ったから。


「……なんでもありだな……」


「何度も言うけど、それは魔力があるから。限界以上のものを創るには時間をかけるしかないんだよ」


「……そうだったな。肝に銘じておこう……」


「そうしてくれると助かる。じゃないと、助けたいときに助けられにいからな」


 今後の課題はいかにして魔力を高めるか、それとも溜め込むかだ。もうこれ以上レベルアップすることはないんだからな。


「話を戻すか。なぜ風呂など欲しいのだ? 水を浴びればいいだろう」


 出た。文化の違い。また最初から説かなくちゃならんのかよ。いや、もう説く必要もないか。


「ぼくが欲しいの。風呂に入り、サウナに入り、水風呂に入る。整いたいんだよ」


 オレ、そこそこサウナが好きな人間だった。バイトが休みの日はサウナに行ったものだ。新しく得た命。満足行く人生にしてやるさ!


「そ、そうか。おれには理解できんが、お前が望むなら協力しよう」


「ありがとう。まずは水が漏れないように作れる煉瓦職人を集めて。あと、薪ってどうしているの?」


 台所で薪を使っていたのは確認している。ただ、この周辺に森はない。どこから集めて来てんだ?


「ローランテから運ばれて来る。沸かすとなると出費が嵩むぞ」


 どのくらい離れているかわからんが、そのうちボックスをアイテムバッグを拡張させて自分で伐りに行くか。


「嵩むようなら何日かに一回にするよ。とりあえずこの部屋くらい集めて。あとは考えるから」


「わかった。手配しよう」


「忙しいのにごめんね」


「いや、しばらくここにいる。物を運ぶだけが仕事じゃないからな」


 灰竜族はギュロやマーブも育てており、マーブの毛を刈るときは一族総出だと言ってたよ。


「じゃあ、また明日話そうか。よい夜を」


 お邪魔虫は早々に退散させていただきますよ。

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