第9話 目標は老衰

 ハーマラン教国に近付いたのだろう。緑が多くなってきた。


 と言っても木々が生い茂る緑ではなく、牧草地が広がる緑だ。モンゴルかニュージーランドかって感じだ。まあ、どっちも行ったことないんだけど!


「あれがハーマラン教国なの?」


「いや、その前にある貿易都市、ルガルだ。おれたち灰竜族の拠点があるところでもある」


 なんでもハーマラン教国に属してはいるみたいだけど、自治は離れていて、商人の町でもあるそうだ。


 世界が違えば社会体制も違う、か。日本に似たようなところに転生させてもらいたかったよ。なんの馴染みもないアラビアンナイト的なところに転生させられても生きて行けるか不安で仕方がないわ。


 貿易都市ルガルには壁はなく、周りにはなんの木だろう? 見たこともない木だ。なんかの果樹だろうか?


 果樹園(仮)を抜けると、大きな広場みたいなところに出た。


「マリバルの広場だ。広場を囲むようにあるのが各商会の買取所だ」


 なんでもここで荷物を降ろし、各商会に頼まれた品はここで渡し、そうでないのは仲買業者が買い取るそうだ。


 売れない品も出るそうだが、一攫千金を求める個人業者が買っていくそうだ。


 隊商は運び込めば損はしないが、馬盗賊とかギャロが死んだとかすれば損をするときもあるんだとよ。


 おれたち馬車組は隊商から外れ、灰竜族の住むところに向かった。


 ギャロも飼っているので町の外に拠点があり、ちょっとした村って感じだった。


 煉瓦の建物がそれなりに建っており、大きな館が中央に建っていた。


「立派な館だね~」


「ルガルでは十本の指に入る一族だからな。まあ、灰竜族は真ん中くらいだろうよ」


 馬車は館まで進み、中から黒のマリールを纏ったおばちゃんと白いマリールを纏ったおばちゃんが三人出て来た。


「奥様。これを」


 もう一台の御者が奥様と呼ばれた黒のマリールを纏ったおばちゃんに手紙を渡した。


 手紙を読んだおばちゃんはため息をついた。


「まったく、困った子なんだから」


 なにかを呆れるおばちゃん。まあ、この状況からラウルに呆れているんだろうよ。


「部屋を用意しなさい。サリサラというのは誰かしら?」


「あ、はい。わたしです」


 ばーちゃんがすぐに返事をしておばちゃんの前に出た。さすが元女官。昔取った杵柄ってヤツだな。


「あなた、女官だったようね。階級は?」


「マリアーラでした」


「……かなり上にいたのね……」


 どのくらい上が是非とも教えて欲しいです。


「はい。当時の女官長様によくしてもらいました」


「……そう。あなたと孫を灰竜族が預かるわ。是非、王宮での作法や礼儀などをリアーたちに教えてちょうだい。アラリアーとするわ」


 わからん言葉が飛び交うな~。その辺、近い言葉に翻訳されんのだろうか?


「は、はい。畏まりました」


 姿勢よく両手を重ね、胸に当てて軽く腰を落とした。


「さすがね。リアーとはまったく違うわ」


「ありがとうございます」


「そちらの者にも部屋を用意します。マヤレ。お願いね」


「畏まりました」


 後ろに控えていた一人のおばちゃんが重ねた両手を胸に当てた。確かになんか違うな。これが王宮と庶民の違いか。


 奥様が黒のマリールを纏った二人を連れて館に戻った。


「では、こちらへ」


 マヤレさんがオレたちを館に案内し、二階の大部屋に通された。


「物置部屋として使っていたところです。しばらくここを使ってください。サリサラ様は一緒に来てください。館を案内しますので」


「わかりました。お願いします」


 女官の顔? になって大部屋を出て行った。


 残されたオレたちはどーすんの? とは思ったが、まあ、大部屋で休んでいろってことなんだろう。


「……わたしたち、どうなるのかしら……?」


 ミルシーヌさんのついでに買われたのは皆わかっているようで、不安な顔で俯いていた。


 こんな時代じゃ女が生きていくのは大変なんだろうな~。なにか特技やら技術があるなら別だけどさ。


「もし、よかったらなんだけど、娼館をやってみない?」


 オレが口を開くと、全員がこちらを見た。


「嫌な思い出しかないだろうけど、女性がなんの伝手もなく、これと言った技術もない。運よくここで働けたとして先は隊商の男たちと結ばれるくらいだと思う。それがいいならその道を選ぶのも手だと思う。けど、暮らしはそんなによくないだろうね」


 家庭持ちの隊員は多かったが、話を聞いている限り、そんないい暮らしをしている感じではなかった。


 そんな暮らしもいいと思うならオレは応援する。でも、もっといい暮らしがしたいのなら体を売るのが手っ取り早いだろう。


「もし、ぼくと一緒に娼館をやってくれるならいい暮らしをさせてあげるよ。売上も七対三。ぼくが七、皆が三ね。食事や生活必需品、薬はこちら持ち。休日は皆の体調と気分次第。もっと稼ぎたいというなら止めはしない。辞めたくなったりいい人ができたら娼館を出て構わない。答えはすぐじゃなくていいから考えておいて。ぼくもラウルさんと交渉しなくちゃならないからね」


 先立つものは金。不自由なく暮らしたいのなら金を稼ぐ。もうゴブリンや魔物を狩って生きられないのだから別の稼ぎ方を作るしかない。創造魔法を駆使してこの世界で生きてやる。目標は老衰だ!

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