第8話 なんてラブロマンス?

 あれから三日。買い付けが終わったようで出発することになった。


「もうちょっと時間があればいいものが作れたのに」


 体も小さいこともあって作業も遅かった。早く成長したいものだ。


「なにを作っているのかと思ったらトイレか」


「トイレって言葉があるんだ」


「神の御子が広めたものだ。お前たちはそんなにトイレに思い入れがあるのか?」


「同じ時代のヤツだったらこの世界のトイレは死にたくなるようなものだよ。家を買えたらまずトイレを創るね」


 オレはまだ男だからそこら辺で済ませてもいいが、女性陣には辛かろう。いや、そうでもないか? なんか平気で外でしてたし。


「それならおれのところにも作ってくれ。興味がある」


「いいよ。トイレはたくさんあったほうが病気になる恐れが減るからね」


 まだ乾燥しているから臭いとか我慢できるが、生活空間で糞尿の臭いがしたらメンタルブレイクだよ。


「それは楽しみだ。じゃあ、出発するぞ」


「随分と遅い出発なんだね?」


 こういうのは夜明けと同時に出発するのかと思ってたよ。今、九時くらいじゃないか?


「移動するのが多いからな、出発には順番があるんだよ。ほぼ一本道だからな」


 まあ、確かに岩砂漠に道が何本もあっても仕形がないか。道を塞がない程度の道幅があればいいんだし。


 オレは一号馬車(勝手に命名)に乗り込む。


 買い取った女性は十一人。ばーちゃんを入れると十二人になるから半分に分け、オレは御者台の横に座る。てか、板に直接かい。よく痔にならないものだ。


「よろしくね、おじちゃん」


 一応、御者の男に媚びを売っておく。十日くらいの旅となるそうなんでな。


「ああ」


 素っ気ない返事。まあ、お守りをやらされると思っているんだろう。ゆっくり打ち解けて行くとしよう。


 順番が来て、四、五年住んだ町を出た。


 つい最近、前世の記憶が蘇ったからなんの感慨もない。もし、戻ることがあったら町をゆっくり見て回るとしよう。仮にもこの世界での故郷なんだからな。


 さて。どんな旅になるのやら。


 ………………。


 …………。


 ……。


 うん。暇ですわ~。飽きましたわ~。これはちょっとした拷問ですかわ~。


 旅はゆっくりで代わり映えのない景色が続いている。


 砂の砂漠ではないので植物が所々生っており、砂漠狼ってのが時々見てとれた。でもそれだけ。これと言った問題もなく、天候が荒れることもない。道も踏み固められているから揺れはそんなに酷くはない。それが返って飽きさせてくるのだ。


 御者の男、ラムジーとは仲良くなれた。


 ラムジーも旅は拷問だと思っていたようで、いろいろ話しかけていたら仲良くなり、この世界のことをたくさん教えてくれた。


 驚いたのは灰竜族は隊商の中でもかなり上位にいるそうで、ハーマラン教国とジ帝国に拠点を持っているそうだ。


 ハーマラン教国にある拠点は、灰竜族の長の弟が仕切っており、ラウルは修業として長の弟の下についているそうだ。


 ちなみに、オレが住んでいた町には長の二番目の弟が仕切っているんだってさ。


 隊商の人間は灰竜族の一族で構成されており、どこかで灰竜族の血が混ざっているそうだ。


 そうやらないと一族が纏まらないんだろうな〜。どこでも人が多くなると纏めるのが大変になるんだな。


 町を出て五日後。村サイズのオアシスに到着した。


 途中、ギュロ用の井戸があり、そこで野宿をしていたけど、人が住むところを見るとほっとするものだ。


 これと言った店があるわけでも買い付けるわけでもない。牧草地があるので羊みたいな生き物が放牧されている。


「エクラカ。女たちはどうだ?」


 野営の準備が終わった頃、ラウルがやって来た。

 

 ラウルは隊商の長なのでいろいろ忙しく、夜に様子を聞きに来るくらい。ほんと、偉くなると苦労が絶えないものだよ。


「全回復したよ。あとはよく食べてよく眠れば体型も元に戻ると思うよ」


 馬車移動ではゆっくりも眠れないし、満足に食べることもできない。


「そうか。マーブを一頭買った。女たちに食わせてやってくれ」


「太っ腹だね。てか、ミルシーヌさんってどの人?」


 未だに女性陣名前わかんないんだけど。


「白髪の女がいただろう」


「あーうん。いたね。ああいうのがタイプなんだ」


 スレンダーで胸が慎ましい女性だった。貧乳派なの?


「小さい頃に惚れた女だ」


「純情だね」


 おいおい。背中の傷は剣士の恥みたいなツラしやがって。中身は純情かよ。お前はなんてラブロマンスの主人公だよ?


「うるせー。女たちを頼むぞ」


 オレの頭を叩いてどこかに行ってしまった。照れ屋か!


 配下の人が丸焼きにされたマーブ(羊)を運んで来てくれ、女性陣たちに切り分けて食べさせた。


「あなたは食べないの?」


「これは皆に出されたものだからね。ぼくたちは余ったものをいただくよ」


 言い方はアレだが、女性陣はラウルの所有物。マーブも女性陣に出されたもの。オレらはご相伴にあずかるみたいなもの。皆が食べた残りで充分だ。


 ……いや、このマーブ、ちょっとデカくね? 二人で担いで来たものだぞ。二十人いても食いきれんやろ……。


 思ったとおり、四分の一も食べてない。明日の分も入っているってことか? まあ、オレも腹一杯食えたことだし、眠くなった。考えるのは明日にさせてもらいます。


 あー食った食った。お休みなさ~い。

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