第5話 呪霊
病人をなんで囲っているのかと思ったら、なかなかクソな理由だった。
ミルシーヌ、と言うか、ここでの女性は商品。人権もクソもない。死ぬまで働かせ、死んだら裏の葬儀屋に売るそうだ。
この店はこの町のマフィアが経営しており、隊商のラウルには手を出すことはできなかったようだ。さらに身請けする制度もないそうだ。
だから店ではなく、マフィアのほうに話を通さないといけないとかで、マフィアの屋敷に向かうことになった。
いや、オレたちついてっていいの? と尋ねたら付き人として側にいて雰囲気を出すそうだ。
「ラウル坊っちゃん、今日はどうしたい?」
マフィアのボスらしき男は、アラブの民族衣装みたいなのを着ていた。
……魔法のランプとか出てきそうな地域だよな……。
「少し、面倒な商売を言付かった。死にそうな女を十くらい欲しいそうだ。これで頼まれてくれないだろうか?」
白銀の板を一枚出した。この世界は小判みたいなのが使われてんのか?
「マルクライスとは大金だな」
「それだけ面倒な商売ということさ。親父様も苦い顔をしていたよ」
「依頼主は言えないのかい?」
「聞きたいのなら教えるよ?」
「いや、止めておこう。嵐はバルウに籠れ、だからな」
君子危うきに近寄らず、的なことだろうか?
「それがいい。こちらとしてもあまり大きい声で言えた商売じゃない。ただ、また頼むかもしれない。そのときはお願いしたい」
「次はラクレカで頼むよ」
「ああ。三日以内に頼む。隊まで運んでくれ」
交渉はそれでお仕舞い。生きて屋敷を出られた。
「あんなものなの?」
「あんなものさ。この町は隊商の往来で賑わっているからな。よほどの理由でもなければ敵対することはない。ただ、信用が強すぎて口を出せないことも多々ある」
思い人を救えない理由がそれだったようだ。社会はどこでも複雑怪奇だよ……。
「それで、証文はどうする?」
「もう必要ない。おれたちはもう一蓮托生だ。どちらが欠けても望みは叶えられない。裏切りは損でしかないからな」
「まあ、そちらがそれでいいのならこちらは構わないよ。後ろ盾がないと生きてけないしね」
回復薬が入った瓶を出してラウルに渡した。
「これはもう二度と手に入らないのか?」
「うーん。この世界って魔法ってある? それ次第かな」
「魔法か。神の御子の系譜は使えるそうだが、この世界では
「呪霊?」
「生き物に宿る霊力を使った
さっぱりわからん。
「ぼくには使えそうにないみたいだね」
「まあ、呪霊が使えないからと言って暮らしに支障はない。使い道など冠婚葬祭くらいだからな。聞いた話では魔法のほうが使い勝手はよいと聞いている」
「うーん。ぼくも長く生きていたわけじゃないから魔法に詳しいわけじゃないけとわ、攻撃魔法が多かったね。ぼくのは補助的な魔法を与えられたけど」
「補助的?」
「ぼくは身体能力が主で、補助的に回復薬を創ったりとかだね。時間をかけていいのなら髪をフサフサにもできるよ」
創造魔法は回復系魔法も創り出せる。効果は回復薬と同じだけど。
「回復薬は何個創れるんだ?」
「体調がよければ七粒。調子が悪ければ一粒も厳しいかな。魔法はそんなに鍛えてなかったからそれが精一杯だね」
「創った分はイージグ一枚払おう」
「イージグーとかわからないから理解してから交渉させて」
感じからして貨幣のことだろう。イージグー一枚がどれほどのものかわからんのだから下手に返事はできないってものだ。
「それもそうだな。じゃあ、細かいのを渡しておく。ばーさん……いや、名前は?」
「サリサラです」
「サリサラならわかるだろう。エクラカに教えてやれ。必要なものを買うといい」
懐から革袋を出してばーちゃんに渡した。
「こ、こんなにいいのですか!?」
かなりの金額が入っているっぽい。金持ち~。
「構わない。この分は報酬から引いておく」
ちゃっかりしてんな~。でもまあ、そのほうが健全か。情に縛られるといろいろ大変だからな。
「わかった。しっかり働かせてもらいます」
さすがに養ってもらおうとは思わない。せめて十歳までは後ろ盾となってもらい、その分の恩義は返させてもらうさ。もうこの世界で生きていかなくちゃならないんだからな。
「ああ。じゃあ、宿に行くか。おれたちが定宿としているところだ。そこなら安心して眠れるだろう」
そう言って連れて行かれたのは町の賑わっているところで、商人町と呼ばれているそうだ。
宿はそれなりだが、商店街が近くにあり、朝には市も立つそうだ。
「おれは隊に行ってくる。今日はゆっくり休むといい。食事は宿の者に言えば出してくれるだろう。外に食べに出ても構わない」
そう言ってラウルは出て行った。
「ハァー。疲れたね。ありがたく今日は休ませてもらおうか。あ、なにか食べる? もらってくるよ」
「緊張して食欲もないよ。まずはゆっくり眠りたいね」
「じゃあ、水をもらってくるよ。体をさっぱりさせてから休むといいよ」
記憶が蘇ってから体は洗っている。
本当は風呂に入ってさっぱりたせたいが、今は水で体を拭くだけでもさっぱりできる。眠るなら体を拭いてからだ。
「ありがとう。お願いするわ」
ばーちゃんも綺麗にするのは嬉しいようで、眠る前には体を拭くようになったんだよ。
「うん。じゃあ、もらってくるね」
そう言って部屋を出た。
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