第6話 馬盗賊

 やはり寝台で眠ると疲れがウソのように取れてくれた。


 これと言って疲れてはないが、ベッドがいいとぐっすり眠れて快適に目覚められるんだな。死ぬ一月前は旅から旅の生活だったからベッドのよさを忘れていたよ。


 いい宿なので食事もいい。ちょっとエスニック風な食事なので味が濃いが、薄い食事も気が萎えるもの。落ち着いたら日本食を食べたいものだ。


 朝食を終えたら買い物に出る。旅となるのでそれなりの格好にしなくちゃならない。砂漠の旅がどんなものか知らないが、紫外線を防ぐものがいいだろう。暑いときは創造魔法で涼しくすればいいんだしな。


 とりあえず、宿の周りにある店で買うことにした。


 宿の人に尋ねて服屋(?)に向かい、予算を見せて店の人に選んでもらった。


 服の値段からして銅のラシニカは一万円くらいっぽい。


 ってことはイージグー(銀)は、十万円か? ラクレカ(金)は百万円。マルクラス(白銀)は一千万円、ってことになるんだろうか? 


 随分と貨幣基準が高いな。そんなに高額のものが取引されてんのか? 庶民はなにを使ってんだ?


 服だけではわからないが、貿易都市ならいろんな国の金が回っているのかもしれないな。まあ、その辺はゆっくり学んでいけばいっか。

 

 その店では旅服と代えの服、あと下着類に小物類を買った。


「ばーちゃん、他に必要なものある?」


「うーん。裁縫道具とか欲しいけど、荷物になるしね~」


「生活に必要なものは住むところが決まってからでいいんじゃない? 鞄とかは必要?」


 代えの服や下着は余裕があったからボックスに入れたよ。


「そうだね。物を入れるものは欲しいね」


 ってことで、肩にかける鞄を買ったら創造魔法で内部を拡張させ、市で果物を買って入れてもらった。


「凄い魔法だね」


「そんなに容量はないけどね」


 買い物カゴくらいかな? 拡張させるだけなら買い物カゴ四つ分はいけると思うが、生ものを腐らせないようにすると買い物カゴくらいが精々なのだ。


「お前はなにも買わないのかい?」


「必要なものはあるから大丈夫だよ」


 金があるなら買えばいいし、ないのなら創造魔法で創り出せばいいだけだ。


 これ以上買うものもないので宿に戻り、出発の日までゆっくり待つとする。


 転生したことで制限がかかっていたのか、日に日にレベル20の体になっているのがわかった。魔力も今なら買い物カゴ三つ分の容量がある鞄──アイテムバッグを創れそうな気がする。


「これ以上、レベルアップしないのが残念だな」


 この世界にゴブリンがいたとして、もうゴブリン駆除などゴメンである。レベル20もあれば大抵の存在に負けることはないはず。勝てないような存在が現れたらさっさと逃げるとしよう。いや、対抗策は用意しておくか。ばーちゃんを守らないといけないんだからな。


「変わった剣術だな」


 やることもないので宿の庭で棒を振っていたらラウルがやって来た。


「自己流だよ。人に使うものじゃないし」


 ゴブリンを駆除するために試行錯誤した剣だ。人相手に修業した者には勝てないだろうよ。


「ここでは人に使うものだ。覚える気があるなら護衛に教えてもらえ」


「旅は危険なの?」


「馬盗賊ってものがいて、隊商を襲ったりもする。隊商の数が少なかったり暮らしが切羽詰まっていたら皆殺しにする勢いで襲って来るな」


「国は討伐したりしないの?」


「ここはジ帝国とハーマラン教国の間。各貿易町が統治している。外に出たら己のことは己で守れ、だ」


 それはまたアンタッチャブルなところだよ。異世界でスローライフとか無理そうだ……。


「よくそんなところで商売をしようと思うよね」


「危険を冒しても満足する利益を得られるからだ」


「この世界でも金は命より重いだ。人ってのは安い存在だね」


 安売りされた身としては納得したくないものだよ。


「安い存在になりたくないのなら高値で売れる存在になることだ」


「思考が完全に商人脳だね」


「褒め言葉だな」


 フンと笑うラウル。自信家な男だよ。


「店から運ばれて来た。来てくれ」


 ってことなので宿を引き払って隊商がいる広場に向かった。


 なんでもラウルの隊商はこの町に買い付けに来たとかで、今は買い付けに動いているそうだ。ラウルはお得意様回りをしてオレたちと遭遇したそうだ。


 灰竜族はハーマラン教国にあり、一応、教徒なんだとか。そんなものでいいのかと思ったが、そこまでガチガチの国ではないそうだ。商売にも寛容で、寄付をしていれば優遇してもらえているそうだ。


 クソ女に人生を狂わされたオレとしては神を信じることも祈ることもしたくない。たとえこの世界の神だろうとな。笑いながら心の中で中指を立ててやるよ。


 広場に来ると、幌馬車みたいなのが二台停まっていた。


 隊商はほとんどがギュロって牛みたいな動物に荷物を積んで移動しているそうで、馬車は人を運ぶときに使われるそうなんだってさ。


「薬は飲ませたの?」


「一粒ずつ飲ませた」


 それなら死ぬことはないな。重傷で飲む一粒が効果が出るからな。


「出発はいつ? 治すなら町を出てからのほうがいいと思う。見られたらちょっかいかけられるかもしれないしね」


「死ぬことはないんだな?」


「夜にもう一粒飲ませたら死なないよ。世話する人はいる?」


「サラサラにお願いしていいか?」


「もらったお金から引いてくれたらいいよ。ねぇ、ばーちゃん?」


 にっこり笑ってばーちゃんを見た。


「え、あ、まあ、いいんじゃないかい」


「ってのことです」


 次はにっこりラウルを見た。


「……いいだろう。世話を頼むよ……」


「お任せあれ」


 恭しく一礼して答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る