閑話1 イアフメス/パアエンネヘベトとセンエンムウト*

 今後、後書きの解説が長くなるようでしたら、独立したエピソード(閑話)として解説を投稿します。ただし、網羅的な解説ではなく、本作に関係するか、もしくは私の思いつくまま、書き連ねます。


 今回は、第3話に出てきた、イアフメス/パアエンネヘベトとセンエンムウトのお話です。彼らは実存した歴史上の人物です。



・イアフメス/パアエンネヘベト

 イアフメス/パアエンネヘベトがネフェルウラーの教育係だった時期は厳密には分かっていませんが、その事実を記した彼の墓の自伝碑文でハトシェプストに正妃と神妻の称号が付いているので、ハトシェプスト戴冠前だったと思われます。


図3は、ネフェルウラーとハトシェプストの名前が記されたイアフメス/パアエンネヘベトの墓の碑文の模写です。右から2番目の列のカルトゥーシュがネフェルウラーの名前、その左側の列のカルトゥーシュがハトシェプストの名前「マアトカーラー」になります。


図3:https://kakuyomu.jp/users/Tazu_Apple/news/16818093088863503806


イアフメス/パアエンネヘベトの墓は上エジプト(エジプト南部)のエルカブにあります:


エジプト地図(図12):

https://kakuyomu.jp/users/Tazu_Apple/news/16818093088864130275

※番号が飛ぶのは、作者の都合です。


・センエンムウト

 センエンムウトのキャリアの初めははっきりしておらず、いつどのようにして出世したのかよく分かっていません。なので、このエピソードに入れた彼の立身出世話やイネニとの関連は架空のもので、彼が宰相の称号を持っていた事実もありません。


 センエンムウトは、自分の彫像を数多く作らせましたが、その中には王女の教育係として子供のネフェルウラーを抱いている彫像がいくつもあります。


 そのうちの1つが、幼いネフェルウラーを膝に抱くセンエンムウトの座像です(図4:EA174、大英博物館)。この彫像のネフェルラーの名前はカルトゥーシュで囲まれており、王女サアト・ネスウ𓇓𓅭𓏏である事も明記されていますが、まだ神妻ヘメト・ネチェル𓊹𓈞𓏏(次話に出てきます)ではなく、額にウラエウス(鎌首を持ち上げたコブラで表された主権・王権・神性の象徴)も施されていません。


*大英博物館の彫像(図4)については、こちらをご覧ください:

https://www.britishmuseum.org/collection/object/Y_EA174


 次に紹介するベルリンとシカゴのセンエンムウトの彫像のネフェルウラーは、大英博物館の彫像と違い、既に神妻と明記され、額にウラエウスを付けた姿で表されています。


 ドイツのベルリン・エジプト博物館(Ägyptisches Museum und Papyrussammlung)のセンエンムウトの彫像(図5)は、方形彫像(英語でblock statue)と呼ばれるものです。方形彫像は、膝を抱えて座る人物の彫像ですが、膝を抱えている部分が直方体のように表現されるので、その名前があります。


 ベルリンの方形彫像(図5:ÄM 2296)は、子供のネフェルウラーを抱えて座っている様子を表していますが、方形の膝の上にネフェルウラーの頭がビョコンと飛び出ているので、少々奇異に感じられるかもしれません。こちらも博物館サイトで写真付きでご覧になれます:


出典1:https://smb.museum-digital.de/object/566

出典2:https://recherche.smb.museum/detail/607065


その他のネフェルウラーを抱くセンエンムウトの方形彫像(カイロ・エジプト博物館)

https://egyptianmuseumcairo.eg/artefacts/statue-of-senenmut-with-the-princess-nefrure/

https://digitalkarnak.ucsc.edu/block-statue-of-senenmut-with-neferure/


 アメリカ合衆国のシカゴにあるフィールド自然史博物館(Field Museum of Natural History)にも、ネフェルウラーを抱くセンエンムウトの彫像(図6:173800)が所蔵されていますが、こちらは立像です。これも博物館サイトで写真付きでご覧になれます:

図6:https://collections-anthropology.fieldmuseum.org/catalogue/1076525

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