### 第一章（続き）

妻が興奮している横には8ヶ月の娘がいた。娘は怯えた様子で、私の腕にしがみついていた。彼女は近くのジョッキグラスを手に取り、机を叩く音が部屋中に響いた。その瞬間、私は心の中で何かが切れる音を聞いた。

「なんでわかってくれないの！」彼女の叫びは、まるで私の心に突き刺さるようだった。娘の怯えた表情が、私の行動を促した。私はジョッキをはたき、妻の手からそれを奪おうとした。危険な状況を避けるために、彼女を取り押さえた。

だが、妻の興奮は収まらず、暴れ続けていた。ほんの数秒の出来事だったが、その間に私の心は葛藤でいっぱいになった。彼女の目には怒りと悲しみが混ざり合い、私に向けられる視線は、まるで私が敵であるかのようだった。

「お願い、落ち着いて！」と叫びながら、私は娘を守るように妻を静止した。その瞬間、彼女の体がピタリと止まった。静寂が訪れ、私たちの間に流れる緊張感が一瞬だけ薄れた。

手を離した直後、妻はその場から去っていった。彼女の背中が遠ざかるにつれて、私の心には不安と痛みが残った。

残されたのは、砕けたグラスの破片と、その隣で泣いている娘の姿だった。小さな手を伸ばし、私の足元に寄り添う彼女の涙は、私の心をさらに痛めつけた。「大丈夫だよ、ママが戻ってくるからね」と言い聞かせながら、私は娘を抱き上げた。

彼女の小さな体は震えていて、私の胸に顔を埋めて泣き続けた。私は痛みを感じながらも、娘を守るために強くいなければならないと思った。周囲の静けさが、私の心に不安をもたらす。

「ママは大丈夫、戻ってくるよ」と繰り返し言い聞かせるが、その言葉がどれほどの意味を持つのか、私自身もわからなかった。妻の興奮がどこから来るのか、私には理解できなかったが、今は娘を安心させることが最優先だった。

私は娘を抱きしめながら、ゆっくりと立ち上がった。彼女を優しく揺らしながら、心の中で妻のことを考え続けた。彼女が何を感じ、何を思っているのか、理解できないまま、ただ待つしかなかった。

その時、ふと気づくと、娘の涙が少しずつ止まっていた。彼女の目が私を見上げ、少し安心したような表情を浮かべている。私は、その瞬間を大切にしようと思った。「一緒に待とうね」と言いながら、彼女の頭を優しく撫でた。

この混乱の中で、私たちが一緒にいることが唯一の救いだった。どんな困難が待ち受けていようとも、私たちは家族として支え合っていくしかない。そう心に決めながら、私は妻が戻ってくるのを待ち続けた。

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