5話 婚活サイト
「女なんて簡単だな。すぐに寝れる。今は5人目だぜ。」
「そんなに簡単じゃないだろう。どうやってるんだよ。」
今回は三友商社に来ている。
また、トイレでとんでもない話しが始まった。
聞いていると、婚活サイトで出会った女性を誘っている。
結婚をすると言わずに結婚を前提に付き合うとしか言わない。
そして、エッチの相性を確認しようとホテルに連れ込んでいるらしい。
女も、バカだけど、商社マンと結婚できると思い誘いにのる。
この男は、3カ月ぐらい寝て、相性が悪いと言って次の女に乗り換える。
女と寝るのに、金を払わないなんてずるい。
いえ、そうじゃない。間違えた。
結婚にすがる女も問題だけど、その気持ちにつけ込むなんて、ひどいやつ。
懲らしめないと。
繰り返し思うけど、女の私が横にいることに気づかないのは本当に不思議。
こんな犯罪の話しをしてるのに。
私は幽霊なのかしらと思うこともある。
まあ、それが私の収入源なんだけど。
裏を取るため、その男の後をつける。
そして、イタリアンレストランで食事をした後、ホテルに向かった。
麗と読んでたから、その女は麗というのだろう。
ホテルを出てきたときに、その男は女に話しかける。
「やっぱり相性が良くないね。エッチは夫婦生活に大切だから、僕らはもうやめよう。麗は性格はいいんだよ。だから、すぐに結婚相手はみつかるさ。僕らは、早くだめだと気づけて良かったね。」
「結婚を前提に付き合っていたのに、捨てるの? エッチだっていっぱいしたじゃない。」
「捨てるなんて、誤解だよ。エッチは、双方の合意でしていたんだろう。自分だけが被害者みたいな言い方はひどいな。婚活サイトは、双方が合うか確認したうえで結婚するためのサイトで、今回は双方が合わなかったということだけなんだけど。」
「でも・・・。」
「泣くなよ。僕は最後まで麗と結婚しようと思っていたんだよ。ただ、エッチの相性が最後まで納得できなかっただけなんだ。麗は本当に素敵な女性だから、さっきも言ったけど、すぐに結婚相手はみつかるって。大丈夫さ。」
その男は、にやけながらその場を去っていった。
残されたのは泣いている女だけ。
私は、家に帰った後、婚活サイトに侵入してみた。
そうすると、その男は、今回、三木 麗という女と交際している。
その前は、いずれも3カ月で交際を打ち切っていた。
交際を打ち切った理由は相性が合わないと書いてある。
どうも、どの女からも被害届はでていないみたい。
でも、私に目をつけられたのは運が悪かったわね。
私は、この婚活サイト運営者と偽って、過去の5人の女にヒアリングを行った。
この男に対して、婚活と言いながら寝るためだけに女と付き合っていると訴えがあったと。
3カ月ごとに5人の女と交際し、寝て、別れるということを繰り返していると。
どの女の顔にも怒りが満ち溢れていた。
そして、彼からどう誘われ、どう別れたのか詳細に話してくれた。
それは、いつも同じ。これで悪意があるのは確実ね。
私は、この情報を週刊誌に売った。
正義感から始まった調査だったけど、20万円を手に入れたわ。
儲かった。でも、正当な調査の対価だから、後ろめたさはない。
3日後、「体だけを求める婚活、女の敵の商社マン」という記事が出た。
5人の女の名前は匿名にしたけど、それ以外はすべて実名で。
今回の婚活サイトの登録者は激減し、サイトは休止に追い込まれた。
そして、あの男は、商社を懲戒解雇となり、行方不明になった。
そして、騙された女の1人に刺され、山中に埋めらたとニュースになっていた。
自業自得ね。
今回も、世の中のクズを始末できた。
少しは、よい社会にできたわね。
最近、お昼は暖かい日もあるけど、朝晩は寒くなった。
街頭の木々の葉は、色づき、もう少しすると枯れ葉として落ちそう。
葉が全て落ちた木々を俳句では裸木というと聞いたわ。
よく寂しい風景と言われる。
でも、私はそう思わない。
この次の春に息吹くために、栄養を蓄え、寝てるだけ。
明るい未来に向けて。
だから、この風景を見ている私の心も明るい。
コートのポケットに手を入れ、家に向かった。
多くの人たちとすれ違う。
光にあふれる夜の街。
クリスマスが近づき、周りの人たちの顔には笑顔が漏れる。
気のせいか、男女で歩く人たちが多い。
みんな楽しそうね。
でも、私は寂しくない。私が選んだ人生だもの。
どうして、目の前の男女は、お互いにあんなに笑顔になれるんだろう。
いずれ、ほとんどが別れを迎えるのに。
いまだけだから、一瞬の輝きを楽しんでいるのかもしれない。
その時だった、目の前の男の口元から声が聞こえた。
「どこかで会ったことがある人だ。どこだったかな。あ、ごめんなさい。なんか知り合いだと思ったんだけど、失礼だけど、どこで会ったか思い出せない。」
「勘違いじゃないですか? 私はここで失礼します。」
「いや、待ってよ。このままだと気持ちが悪いから。少しだけ考えさせて。」
私は一目見て分かっていた。
目の前の男は、鹿児島から羽田に向かう飛行機で通路を隔てて座っていた人。
あの、スマホで映画を見ていた人。
幸せになってねと思っていた人。
「あ、思い出した。この前、飛行機でご一緒しましたね。こんな偶然があるんだ。せっかくだから、連絡先、交換しましょうよ。」
「いえ、あの・・・。」
結局、強引にお願いされ、LINEの友達になってしまった。
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