3話 宇宙ビジネス
高級レストランでは、横からカップルの声が聞こえてきた。
「この前、潜水艦の入札で賄賂してるって、ある会社が問題となっていたじゃない。智は、潜水艦じゃないけど、宇宙船建造の営業しているでしょう。智の会社は大丈夫なの?」
「大きな声じゃ言えないけど、まだ、日本は、裏のやりとりで動いている国なんだよ。だから、言えないこともある。でも、僕は大丈夫。だって、課長とか責任者じゃないし、宇宙の世界は、まだまだ狭い社会だから、みんな内輪の秘密を守るんだよ。」
「そうなの? 心配だな。智が、トカゲの尻尾切りとかされないわよね。EH Iって、ちゃんと守ってくれるの。」
「EHIは日本の有数の企業だから、大丈夫だって。何かあっても、当面、子会社とかに行って、禊をした2年後ぐらいに本社に昇格して戻ってくることも見たことあるし。」
「私、智と結婚するんだから、将来できる子供のためにも、頑張ってもらわないといけないけど、無理はしないでね。法律違反で捕まったりしたら、許さないから。」
「大丈夫だって。まあ、今日はこの雰囲気を楽しもうよ。」
「ところで、あの女、1人でこのレストランには不釣り合いね。もう、デザートだから、今日、相手が来なかったという感じじゃないしね。ああいう、気取ってる女って、雰囲気悪いのよ。寂しい女だということを知らずに、周りを見下すように見てるっていうか。早く出ていかないかしら。」
「萌が言っている通りかとは思うけど、聞こえるよ。まあ、放っておこうよ。」
聞こえてるわよ。
聞こえるように、言っていると思うけど。
本当に嫌な女。
せっかくいい気分も台無しね。
あなたなんか、見下す人間にも至ってない。
大した彼も連れてないのに、マウント取るんじゃないわよ。
でも、私の気持ちに炎をつけたのは失敗だったわね。
見ていないさいよ。
EHIの智という社員はすぐにわかった。
HPの新入社員への紹介ページに出ていたから。
名前は、江崎 智という。
いつもの依頼主に連絡すると、是非やってもらいたいと返事がきた。
私から提案すると報酬は上がる。
今回は、200万円だって。燃えるね。
まずは防衛省のトイレ清掃員として入り込むことにした。
エリートって、本当に嫌な人たち。
委託しているIT会社の社員に怒鳴り散らしていた。
お前たち業者は、俺たちと格が違うんだから、俺たちのトイレに入るなって。
人間としてどうかと思う。
そんなに、お前たちは偉いのかよ。
でも、今回は、報酬もいいし、黙って仕事に専念する。
そうすると、EHIの悪い噂が聞こえてきた。
「課長がさ、EHIから猛烈な接待攻撃を受けているんだってよ。」
「本当か。それって、賄賂だろう。」
「そんな堅いこと言うなよ。俺たちだって、そろそろ接待される立場だろう。これから楽しめるんだから。」
「そうだな。こんな安い給料で死ぬまで働けなんて、おかしいからな。」
「でも、EHIの江崎っていう営業はえげつないらしいぞ。昔、問題となっていた、ノーパンしゃぶしゃぶを復活したとか。今夜は、佐々木課長が接待されているんだって。」
「面白そうだな。俺たちも、もう少しか。」
だいたい全体像はわかった。
どうして、みんなトイレ清掃員には警戒しないのかしら。
この情報を依頼主に伝える。
3日後、週刊誌には、防衛省の贈賄が大々的に報道された。
そして、EHIは営業課長とともに、江崎という係長も逮捕された。
ざまあ。
そもそも、彼の行為だから、私のせいでもない。
あんな男を選んだあなたも、女としてレベルが低いの。
不幸になればいいわ。
お腹に子供がいたのかはわからないけど、そうだと一緒に地獄行きね。
まあ、そんなレベルの女だもの。
悪は、いずれバレるの。
日本は古いから、賄賂をしていい。
そんなことは幻影。
もう、世の中ではズルした人は生きていけない。
口座に200万円が振り込まれたことを確認する。
今日は、ロケット発射を見学しに種子島に来ていた。
今は、帰りで、さっき、種子島からプロペラ機で鹿児島空港に着いた。
空港ラウンジの窓からは到着したばかりの飛行機が整備されている様子が見える。
手元には祝杯のビール。夕日がグラスの中を反射して美しい。
飛行機では仕事に追われている男女、不倫してる男女、いろんな人が乗っていたのね。
世の中には大勢の人がいるのに、どうして不幸と思ってる人が多いんだろう。
私が誤解してるのかしら。
みんなが不幸と苦しんでるように見える。
飛行機に搭乗していく人が見える。
どんな将来に旅立つのかしら。
幸せが待っていればいいわね。
ライトの光がいろいろな所から差し込み、影が交差する飛行機。
どこに向かうのかしら。
私が乗る飛行機の搭乗案内が聞こえる。
Group5の私は最後に乗り込む。
すでに座ってる女にお詫びして窓側に座った。
横には、ネットでどのヘアアイロンを買おうかとずっとスマホを見てるバカ女が座る。
可もなく不可もなく、どこにでもいる女。
ヘアアイロンで、そんなに綺麗になれないこと、気づいていないの?
通路側に見える若い男は地味だけど誠実そう。
背広を着てるから鹿児島に仕事なのかしら。
羽田行に乗って、東京での仕事があるのかもしれないわね。
今は苦労していても、こんな男には幸せになってほしい。
顔には疲れが浮かぶ。
苦労の日々なのね。
今、スマホを見た。彼女からのメッセージなのかしら。
そう思ったら映画みたいのを見てる。
ささやかな休憩時間なのね。
たぶん、仕事は大変でも、趣味とか、それなりに楽しんでるんだと思う。
こういう男が幸せになる世界であって欲しい。
整備士が見送る飛行機が飛び立つ。
誰にも見られずに頑張る整備士は美しい。
ヘアアイロンばかりを見て自分のことしか考えられない横の女は醜い。
走り出した飛行機の窓からは、滑走路に設置されたライトの光が流れ出す。
角度がついて、空に飛び立った。
キャビンアテンダントが飲物を配る。
今まで寝てた横の女がいきなりお茶を頼んだ。
命令するように。
人のことは言えないけど、人を見下す女は嫌いだ。
お前は、そんな偉いのか。
お茶を一気に飲んだら、もう目をつぶってる。
マスカラをして、本人はキレイになったつもりね。
でも、心の醜さは体から滲みでてる。
横に見える男とは、まるで違う。
お茶を飲まずに寝れてればよかったのに。
お茶を飲まないと損する?
本当に心が貧しい女ね。
さっきの男はオレンジジュースをゆっくりと味わう。
今日は頑張ったという表情を表す。
そんな顔をみたかったわ。
頑張ってる人が損する社会だからね。
飛行機の中でのささやかな自由を楽しんで。
私もほっとしてるから。
横の女、本当に嫌な女。
少し肘がぶつかっただけなのに、ひどい顔で睨んできた。
寝てたはずなのに。
持っているポーチは模造品じゃない。
どうせ、くだらない生活を送ってるんでしょう。
いつしかEHIの彼のことを思い出していた。
薄っぺらい男だった。
その彼女も彼に寄生すること以外、何も持ってない女。
私は、バカな伴侶とかいなくて本当に良かった。
横のバカ女は顔を上げて寝てる。
恥ずかしくないんだろうか。
こんなことを考えてるうちに羽田のライトが見える
緑のライトが私たちを迎える。
私の家に帰ってきた。
ゆっくり休もう。
くだらない女たちを忘れて。
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