2話 セキュリティロジック

次のターゲット会社はIT会社。

セキュリティ対策のアプリ、ソフトウェアを展開している。


セキュリティは攻める方と守る方でイタチごっこね。

だから、相手の情報を取得できれば、今の戦いには勝てる。

あっという間に次の戦いに入るけど。


でも、この会社はすごいと思わせれば当面は優位に立てる。

それだけでも莫大なお金を稼げるから、私に依頼が来るの。

今回は、この会社が画期的なロジックを開発したと発表した。


それを泳がせ、適用したらすぐに、そのロジックを破る。

この会社のブランドはボロボロ。

そういう作戦のようね。


そのロジックは、特殊エリアにあるサーバーに格納されている。

そのサーバーは、ネットには繋がれていない。

その特殊エリア内でしかサーバーにアクセスできない。


外からネットで侵入できないから、このビルに入らないと入手できない。

だから、これまで情報が漏洩したことがないことを、この会社は売りにしてきた。


でも、ITシステムには必ず欠点がある。

例えば、そのエリアに入るには生体認証が必要。

でも、そのデータは必ずどこかで管理されている。

それを膜にして手に付ければ生体認証はクリアできる。


よく映画とかだと、手を切ったり、目の玉をくり抜いて使う。

でも、そんな怖いことはしない。

だって、犯罪でしょう。まあ、情報を盗むのも犯罪だけど。


あとは、エリア内の端末のアクセスコードとファイルのありか。

そして、そのファイルのPW。

そのぐらいがあれば、大丈夫かしら。


ファイルのコピーができれば最高。

できなくても、画面をカメラで撮影する。

そこに導ければ私の仕事は完了。


今回は、どうしようかしら。

トイレの清掃員が、特殊エリアに入るなんて無理。

社員になりすましてバレたら捕まるでしょう。


だから、まずは特殊エリアに入れる生体認証データを管理する人を探す。

そして、その人の弱みを握り、脅して情報を取得する。

全体を管理しているような人じゃなくて、下っ端がいい。

そんな人は、ちょっとした脅しでビクビクする。


特殊エリアがあるフロアのトイレ清掃員となった。

今は、こんな仕事、人気ないから簡単に潜り込める。

誰からもバカにされてる仕事だもの。


1週間ぐらい経った頃、狙っている情報が入ってきた。


「三木さ、来週、この会社の専務がこの特殊エリアを視察に来るんだって。1ヶ月ぐらい前に銀行から来た役員で、この会社を紹介することになったらしんだ。だから、早急に専務が入場できるように生体認証の手続きを進めてほしい。管理本部長は、鉄壁な管理をアピールしたいんだとさ。」

「わかった。来週っていったって、今日は金曜日じゃないか。早くしないと。まあ、俺たちのボスは管理本部長だからな。ゴマをすっておかないと。」

「よろしくな。」


いつものことだけど、このトイレで私は存在していない。

最初はビクビクだったけど、今は、慣れてしまったわ。

まるで幽霊のよう。


その後、しばらく、この三木という男をマークした。


「課長、今度、この会社に誘いたい人がいるんですよ。技術レベルが高くて、昔、一緒に仕事していて協調性もある人なんです。今週の水曜日に、夕食を一緒にするんですが、経費で出してもらっていいですよね。」

「そうか。いつも、三木は優秀な人とのリレーションが豊富だな。ぜひ、お願いするよ。」

「ありがとうございます。期待していてください。」


どうも、リファーラル採用のために交際費を使っているみたいだ。

また、その日の夕方に廊下の陰で電話している姿も見かけた。


「凛、今週の水曜日、高級レストラン、予約できたんだ。一緒に行こうよ。空いてるだろう。わかった。じゃあ、18時に、帝国ホテルのロビーで待ってるね。楽しみにしている。」


あれ、彼女と会社の経費でデートなの?

翌日の朝には、最近、三木さんの誘いで入社した2人がトイレで話していた。


「お前も三木さんの誘いで入ったのか? 俺もだよ。でも、三木さん、居酒屋で奢ってもらって、久しぶりに楽しかったというか、盛り上がってさ。」

「先輩もですか。あの、白木屋ですよね。」

「そうそう。」

「僕も、盛り上がって楽しかったですよ。この会社、とってもアットホームだなって思って転職したんです。」


どうも、会社の経費で高いレストランに彼女と一緒に行く。

他社から引き抜く人とは安い居酒屋で自腹で奢る。

こういうことね。


今回の高いレストランと居酒屋は尾行して突き止めた。

そして、後日、領収書を忘れたからといって無理に領収書をもらう。

出してくれないお店は、クレジットカードの明細でいいからと写真を撮った。


更に、依頼主に調べてもらったら、かなりの金額をサラ金から借りてる。

今どきの一流企業では問題にされるわね。


金曜日にトイレを出た三木さんの後ろにメモを落とす。

あなたの不正を知っていますと書き、その下にレストランと居酒屋の名前を。

また、利用した日付、金額を書いておく。

サラ金の情報も。


「すみません。メモみたいものを落としましたよ。」

「僕のじゃないと思いますが・・・。」

「いえ、今お持ちのノートから落ちるのを見ましたけど。」


彼は、メモを見た途端、真っ青になった。

これは脅せる。

彼を通じて、生体認証だけでなく、エリア内の各種情報は入手できるはず。


私は、依頼主に、一連の情報を提供した。

依頼主は、暴力団を使って彼を脅すと言っていたわ。


情報を出さないと、上司に不正をバラすし、生きていられるかわからないって。

多分、そんなことを言うのね。

私の仕事はここまでで十分。


今回は、依頼主は、このIT会社を脅したらしい。

こんな情報が出回るより、金を出して揉み消した方がいいでしょうって。

依頼主は、これで、たんまり金をゲットしたらしいわ。


だから、私もお金を弾んでもらって500万円をゲットできた。

1週間分の収入としては期待以上。


そういえば、日頃は目立たないように生きているとは言ったわね。

でも、贅沢することもある。


ハイブランドのショップで、真紅のドレスを買う。

スカートにはスリットが入って、私のスタイルを大胆に見せつける。

ゴージャスなネックレス、イヤリングをつけて高級レストランに。


1人だと寂しいと思う人もいるようだけど、そんなことはない。

日常的に、こんなレストランで夕食をとる上級国民だと誰もが思う。

それが快感なんじゃない。


くだらない男の話しを聞きながら、笑顔で相槌を打つなんて時間の無駄。

むしろ、1人の方がお料理の味をしっかり味わえる。

高級ワインも1人の方が楽しめるでしょう。


最近は、1人が好きな女が増えているのも、よくわかる。

男なんかに頼らなくても楽しく生きていけるもの。


戦争とかがあると腕力とかが重要になる。

でも、今は、男が女に勝てることは何一つない。

男は子供を産めないし。女は、精子を買って子供を産める。

だから、私は、1人のこの時間を楽しむの。


ごめんなさい。

素敵な男もたくさんいるわね。

私が変わってるだけだから許して。


そういえば、この前のIT会社の管理本部長、クビになったらしい。

セキュリティ会社の情報が漏洩されちゃったって、責任重大だもの。


どこも雇ってもらえなくて、今は公園でホームレスになっているとか。

もう社会的には死んだと同じね。

「トイレの花子さん」の被害者がまた1人増えたわ。

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