第2話 はじまりの記憶②

9月1日。

残暑どころか、未だ夏本番と言っても差し支えない暑さの中で、新学期が始まる。

学校では冷房を使用しているが、当然屋外においては関係ない。

赤黒く日焼けしたサッカー部の面々は朝の練習があったようで、始業前だというのに教室内は制汗シートの匂いが充満している。

今日からこのサッカー部に合流ということを決められていた僕は、朝から緊張していた。


考え事をしていると、あり得ない速度で一日が過ぎていく。

始業式もホームルームも上の空のまま、午前中しかない1日は終わりを告げた。


今日は早く帰れると思ってたのにこれからミーティングだと、文句を言いながら教室を出るサッカー部の部員たち。

僕は高鳴る拍動をなんとか抑えながら、彼らが向かった会議室へと歩き始めた。


時刻は正午を少し回って、校内からは喧噪が去った後。

僕は会議室の黒板の前で、不満そうな顔が驚きに変わる瞬間を見た。

それも当然のことである。新たな部員として紹介されたのが、運動もできない陰キャだったとなれば、それは驚くだろう。


「橘には、この部のアナリストとして活動してもらう。」

アナリスト。あまり聞き馴染みのない言葉だ。

部員たちも、皆不思議な顔をしていた。

「戦術を考えて、お前らの試合の反省点を第三者的な視点から出してもらう。それが橘の役目だ。」

田山先生はこう言うが、目の前の部員たちは僕の運動能力を知っている。

部員に受け入れられるのは難しい。そう思っていた。

ただ、最初に上がった声は意外なもので。

「橘くん!俺は歓迎するよ!」

僅かな静寂を打ち破って声を発したのは、同じクラスの水城君だった。

後になって知ったことだが、田山先生は反対意見を封殺するため、キャプテンの水城くんに理解を求め、僕の入部を受け入れるように根回ししていたのだという。


キャプテンが率先して賛成してしまえば、残りの部員に反対できる者は居ない。

会議室は一瞬で拍手に包まれ、僕の入部は承認された。

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サッカー部の将軍 香豊大 @castor0516

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