6-1
カウンセリングルームは、地球にいるかのような快適さだった。照明は柔らかい日光を思わせ、観葉植物は地球産。
ソファも緑色の合皮製。肌寒いことの多い基地の中でこの部屋は丁度良い暖かさを保っていた。
「はじめまして、カウンセラーのエイヴァです。よろしくお願いします」
私の向かい側に座るのはエイヴァという名を持つ若い女性だ。年齢の割に場数を踏んでいるように見えるあたり、ケンと同じ長命一族の仲間だろうか。
「よろしくお願いします」
「カウンセリングと言われていますが、まあそう緊張せずにいきましょう。あなたに何があったのかは聞いています」
「任務中にぼうっとして失敗したと?」
エイヴァは気味悪いほどに笑みを崩さない。
「そんな言い方なさらないで下さい。人間だれしも失敗します」
「人間は失敗しても許されるが、俺はそうもいかない」
あくまでも私の役割はボイジャーと同じ。あれが異常をきたしたら、カウンセリングなど行わないだろう。
「いいえ。この組織の方はあなたにそのような役割を求めるのかもしれませんが、私はあなたを人間と認識しています。
秘密厳守なので、遠慮せず思っていることを話してみてください。無理に、とは言いませんが」
エイヴァのオリーヴ色の目は私を人間として映しているようだ。正体など、とうに知っているくせに。
「ミスの原因は、同僚と上手くいかないことによる現実逃避に由来している。公私混同が過ぎたようだな」
「仕事だと分かっていても、知った顔がいると落ち着かなくなることってありますよね」
うんうんと頷きながらエイヴァが同調してくる。そんな手段が私に通じると思っているのだろうか。
「でしたら、人員配置に関する問題かもしれません。私の方で上に相談してみましょうか?」
このままいけば私にとって一番の邪魔者を排除することができる。だが互いに名前を変えて出会った彼は、もう私の知っている二万年前の教師ではないようにも感じていた。
昨日の話を聞いていてもそうだ。あの存在からすれば、私に魚を与えたくてたまらないのだろうが、今回はそこまでの手助けはしない、それは間違っているのだと思うと認識していた。確実に彼は私に歩み寄ろうとしている。
であれば私だけが拒否し続けるのは残酷ではないか?
「いいえ。だからこそ、その人と上手くやっていきたいと考えている」
エイヴァは素晴らしいですね、とわざとらしく褒めてくるばかりだ。
「あなたのそういった強い心は、きっとその方にも伝わりますよ。それに、公私混同を全くしないなんて難しいことです。敢えて難しいことに挑んでいく姿勢も流石です」
「大変な仕事だな。いちいち人をおだてないといけないなんて」
そう言い放ってやる。予想通り、エイヴァは笑みをしまった。だが、返答は私が考えたものと全く異なっていた。
「それは違いますよ。アレックスさん。どんな人にも優れた点はあります。私はそこを見出して後押しするだけです。
私の仕事は落ち込む人を激励することでも褒めたたえることでもありません。年上の方相手は久しぶりの仕事でしたが、私のやり方は変わりません。
あなたが相手に向き合えば、その人は必ず答えてくれる。そう信じているから、向き合うことを選んだのでしょう」
まっすぐと見つめられ、私もその眼を見つめ返す。間違いなくエイヴァは「メトセラの子」だ。
だが永遠を貪り食う特権階級というよりかは、長い時間を利用してより多くの人々を理解しようとしているように見えた。
「そうだな。あなたの言葉に元気づけられた」
「私は職務を全うするだけです。まあ、あなたには元々、私なんて必要なかったようですけどね」
「何故そう思う? 元気づけられたのは事実だが」
そうですね、と言葉を選ぶ彼女は、最適解を見つけ出したのかくすりと、先ほどまでよりも自然に笑みを浮かべ
「私はメトセラの子にすぎません。メトセラには到底及ばないのですよ」
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