4-1

 夜になると、夜の星々が私たちを見守っている。ぱちぱちと燃える赤い炎に照らされながら、私と"星の人"は星空を眺めていた。


流れ星の方からやって来たからという理由で隣に立つ青年は"星の人"と呼ばれるようになったらしいが、本当に遠くの星からやってきたのだろうか?


「"星の人"、質問があります」


「どうしたの?」


「あの星の中に、私も入っていきたい。そして、星空の全てを解明したいです」


何を言っているのか、と馬鹿にされるだろうか? "星の人"だけはそんなことはしない気がしていた。


「良い目標だね。絶対できるよ。まず目指すならサテライトからかな。


その次はさっき教えたこの大地の外側に広がる別の大地、星空を目指すのはその後かな。別に君一人で行かなくてもいい。


人間同士で協力しながら、少しずつ前へ進んでいけばいい」


「私にはそんな時間はありません。分かっているんです。もう長くはないと」


 近いうちに足の怪我が体を蝕み始める。"星の人"から教わった知識からするとそうだ。


同年代の皆が子供たちに狩りを教える歳になるころには、私は土の中。


 この先、"星の人"が言うように人類がより大きな集落で、過去を記録しながら生きていくのだとしたら、私はせいぜい人類の空を目指した記録の一番最初で終わってしまう。


「だったらさ、永遠に生き続けたい? 俺や"首長"のように」


この時ほど決断に迷ったことはない。私の人生がこの大地の終焉を超えて続くのか、もってあと少しなのか、決まってしまうのだから。


「いいえ。私は永遠に値するような者ではない。永遠に耐えられる自身がありません」


"星の人"は短く、分かったと返事をしただけで、星空観察に戻ってしまった。


私はというと、永遠について、恐ろしいと同時に羨ましいという気持ちが残り続けていた。


 いつかは、それこそ人間がスペースに行けるようになるまで生き続け、人間と助け合いながら人ならぬものとして星空の大河を泳いでみたい。


だが、その夢がかなった後の時間をどう消費していく? もっともっと遠くを目指していく? では遠くに辿り着いたらどうなる? 


いつかは退屈する日が来てしまうのではないか。


 考えれば考えるほど永遠性は美しく、恐ろしい。輝きを放ちながらも一寸先に死を用意しているらしいこの星空のように。




「プロキシマ・ケンタウリ計画に向けて、なるべく宇宙空間移動の感覚を失わないように、訓練は続けていきます」


 脳波通信でジョーの声が疑似的に聞こえてくる。私は今、火星の重力が弱くなるあたり、つまりは宇宙空間だ。


「今日の目標地点は木星の衛星圏内までの往復。これを五回繰り返してもらいます。では、頑張っていきましょう」


赤いつなぎのまま、宇宙空間を泳ぎ出す。もう何度も通ったルート。今更迷うこともない。


だが宇宙空間はいつ眺めていても飽きない。この素晴らしさを空の向こう側に暮らす友人に伝えたいくらいだ。


 往復を三回ほど終えると、ジョーの方から通信が来る。


「あと二往復ってところで悪いんですけど、休憩時間に入るから、君との通信はヤンっていう新入り君と交代します。じきにヤンから連絡がありますよ」


ジョーの言った通り、ヤンはすぐに連絡をしてきた。


「交代しました、ヤンです。一緒に頑張りましょう、アレックス」


脳波は疑似的に話者の声を聞かせてくる。その声に聞き覚えがあった。思わず、宇宙空間で「立ち止まる」。

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