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巨大な宇宙船となると話は異なるのかもしれないが、天体の密集地とはいえ二メートル程度の私から見れば間を通るには十分すぎるほどの距離があった。
星々がすぐそばに現れては遥か遠くに去っていくさまは今でもこの世のものとは思えない。映画の撮影でもしているだけではなかろうかと疑いたくなってしまうくらいだ。今でも。
周囲の天体からは一切命は感じられない。この宇宙唯一の生命体は私だ、と錯覚してしまいそうなほど、周囲は無で満ち溢れている。静かな海を一人泳ぐかのように、私はこの宇宙を駆けていく。
「前よりも速く前進できるようになっているようだ。今なら無人探査機とほとんど差はない。僕たちに似ているけれど、特別な存在なんだな」
ノイズが走る。必要と不必要の報告。
「移動速度については今回の件が終了してからで結構。独り言なら、脳波通信を切ってからで」
「寂しいこと言わないでくれ。僕は君と仲良くしたいと思っている。同じ計画に参加する仲間なんだから。そこに人間かどうかなんて関係ない」
あほらしい。しょうもない。呆れそうだ。様々な負の感情が沸き上がる。人間が仲間を作る際に一番大切なのは自分とどれほど似ているかだ。出身や宗教、性別など様々なものが該当する。人間同士である場合は。
「人間がはじめて宇宙に行く前、様々な動物が宇宙へ行った。だがお前らの先祖は、誰一人として勇敢な地球の動物たちを仲間として称えなかった」
今の時代は違うという反論を無視して前進を続ける。このままだと付近の惑星の重力圏に入る可能性がある。天体同士の広大な隙間を使って星から離れ、丁度良い距離感を探していく。
私と人間の関係性もその程度で構わない。所詮は異なる生き物同士。完新世が始まって以来、誰一人として分かり合えたことなどない。
カイパーベルトを抜け、とうとう上下左右、少なくとも私にとってのだが、を小惑星が取り囲む。背後にはわずかに光を送ってくれる太陽。オールトの雲の入り口へと到達した。あれから脳波通信は行われることもなく、大きな支障も発生せず。
「こちらアレックス。オールトの雲到達です」
「こちら火星基地ネオヴィクトリア。アレックスのオールトの雲到達を確認。二十四時間の休息後、再び通信を行います。こちらの指定するルートで火星基地へ帰還してください」
先に夢物語を語った無礼者とは異なる脳波が私に指示を出す。どうやらこの空間に地球にとっての一日分だけいさせてくれるらしい。
ああ、神よ! クリスチャンになった覚えはないが、神なんて言葉を漏らしてしまいそうなほどの壮観。この空間に音などないのだが。
初めて星空へ行きたいと思ったのはいつだったか。確か、まだ人類が月に行くよりも前、地球が太陽の周りをまわっていると確定するよりも前、この大地が球体であると気付くよりも前だった気がする。
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