人生の相席空席

ネコロイド

人生の相席空席

 人肌恋しいというのは季節柄、流行り病みたいなものだと考えた事はないだろうか?

連日続く猛暑日にそんな想いを馳せる人は少ない。殆どの人にとっては季節や気候の変化さえ『心の持ちよう』が左右されてしまうものである。

人は弱い生き物なのだと改めて認識してしまう。


 ドアが開くと中の暖まった空気が外に逃げたす。

素早く入り込むと思わず「混んでるな」そう男は心のなかで呟いた。恐らくは唇がそう動いて漏れていたに違いない。普段なら常連しか居ない筈だが週末とイベントが重なりこの日は混雑していた。


「相席、いいですか?」男は女性が返事をする前に隣に座った。この男に云わせれば「人生なんてそんなもんだろ。隣に誰か居たりいなかったり」これは此れで正論だ。座りそびれたり、誰かに捕られたり、親に決められてそこに座らせられる人もいる、人生とは窮屈である。


 この男もそれなりに独り身は長くその場の楽しみかたをわきまえていた。しかし今日は珍しく少し遠い目で前を見つめていた。隣の女性も待ち人がいる素振りもなくナッツを摘まんで口に入れて時間をもて余している様子。男もまた同じ時間を共有するかの様にボトルのまま口をつけて少し口に含むと手元を眺めて沈黙を楽しんだ。


 暫くして女性が男を横目に「いいですか?」と声をかけてきた。野暮ったいことなど聞き返さずスマートにその女性を離席させると男はまたボトルを口にしていた。若すぎるカップル、スマホとにらめっこする者、大勢で騒ぐ者、「ここはそうい場所になったのか」と男は内心思いつつも、いつになったら孫の顔が見れるのかと問う親と自分を重ねて辟易した気分がしていた。


 時間が経つにつれ人がまばらでで空席が目立ちはじめていた。離席した女性も戻ってくるわけでもなく、男は「いつもの事だ」と言わんばかりにまたボトルを口した。扉が閉まる否かのタイミングで若い女性が駆け込んできた。空席だらけで選り好み出来る女性が敢えてこの男の横に座る事などない。


 歳も一回りくらい若く、初々しいさが文不相応だと分からせてくれる。「いつもより長居した気分だ」そう思うには十分過ぎた。男は設置されたボタンを押して立ち上がると少し揺られた様にフラつき「オレも歳だな」そう呟いた。


『次、止まります』


そうなり響くとバスは停留所で止まり、この男を降ろした。「今日は寒いな」男は肩をすくめた。

もし、この男に哀愁を感じたのなら自愛すべきである。




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