第3章15 『諦めなかったヤツが栄光を手にする』
「まぁ、毛ほどはマシになったが――正直まだ足りねぇ。が、四の五の言っている暇もねぇ事も事実だ」
突貫トレーニング2日目も終わり。
赤猿は神妙な表情を浮かべながら言う。
やはりまだ研鑽が足りていない事は事実であり、水樹もそれを否定する気はない。
一応は波斬の権能を引き出す事には成功したが、今度は神力の消費が激しいという問題が浮上した。
コレばかりは付け焼刃で何とかなるものではない。
実質、水樹の有する切札となった。しかし、必殺にはならないところが難しいところか。
「……これより行くところは神々の住まう世界――神域です。当然、ただの人が許可も無く足を踏み入れる事はできません。ですが――、」
「――オレが坊主に許可を与えた形にしてやったぜ。勿論、今回の襲撃の責を問われる可能性はあるがな」
カラカラと清々しく笑う赤猿に、水樹は申し訳なさを覚える。だが、次の言葉でそれも霧散する。
「ま、そうなっちまったら普段ヤりあえない奴らとヤれるなら問題ねぇがな」
流石は戦闘狂である。しっかりブレないでいる。
「わたしとしても助力をしたいのですが……」
静流が口を開くが、水樹は首を横に振る。
赤猿はともかく、静流を起点にした神様の争いへ発展させるワケにはいかない。
コレはあくまでも水樹による水蛇へのリベンジマッチだ。
「……わたしは気にしませんが?」
「俺が気にするんだよ」
「水樹の為なら神である事すら捨てても問題ありません」
「……気持ちだけでも嬉しいから、な?」
妙に静流の発言に棘がある。この2日間はろくに話もできなかったからだろうか。
ムスッとした様子で口を閉ざす静流を横目に、赤猿が呆れた顔で口を開く。
「まあ、坊主の言う通り嬢ちゃんは留守番だ。それに
「………………わたしが水樹の婚約者なんですが?」
「へいへい、それはよーござんしたねぇ」
適当にあしらう赤猿に、水樹は何とも言えない顔を浮かべるしかできない。
「――さて、とりあえず日の出と共に神域へと踏み込む。その後は現地にいるオレの舎弟から情報を聞いてから襲撃の準備を整える」
「……舎弟?」
「ん? おう、オレを兄貴つって慕うヤツらいるんだ。そいつらに偵察等々を頼んでんだ」
どこのヤンキー集団なのか――水樹は神々の私生活に心配してしまう。
そんな水樹の考えを悟ったのか、赤猿が口を開いた。
「神とは言っても、一般神もいるんだよ。勿論、落ちこぼれと蔑まれる神もいる。所謂、人間らに名の知れた『大神』どもばかりじゃねぇんだ。実際オレも神々どもの間じゃ有名だが、人間たちにはさっぱりだしな」
聞く限り、神の世界も人間の世界もその営みに大きな差異はなさそうだ。まあ、考え方と倫理観が人間とはズレているのだが……。
「とにかく向こうの情報は集まっている筈だ。あとは坊主が焔を宿するか否かってところだぜ?」
赤猿はそう言って、水樹の胸を拳で押す。
「どんな苦境であったとしても、最後まで諦めなかったヤツが栄光を手にする。全てが報われるとは限らねぇが、報われた奴は全員諦めなかったヤツらだ」
赤猿はニッと笑みを浮かべる。
「坊主、手前ができる全てで事にあたりな。後方はオレに任せな」
「……ああ、頼んだよ赤猿」
水樹は自身の拳を赤猿の拳にぶつけた。
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