第3章13 『赤猿による考察』

 内に眠る神力を如何にして効率よく引き出し、権能として行使するか。

 水樹の力として行使できるものの1つに神刀・波斬がある。龍水の反応から察するに雨竜と呼ばれる神の有していた権能みたいであるが、何の経緯があって水樹が有する事になったのかは不明だ。

 この波斬を水樹は普通の刀のように武器として使用しているが、本来神刀と呼ばれる権能には『何らかの力を保有している事が基本である』とは赤猿談。

 赤猿の手にしている身の丈程の棒も神刀と同類となるらしい。使用はしていないが当然の事ながらとある力を有しているようだ。生身ですら強いのに武器も強いとは、戦闘狂の異名は伊達ではないという事か。

 1日目の模擬戦もあと数分で日付が変わる頃となり佳境を迎えつつあった。

 相変わらずボコボコに痛めつけられ、治療され、再び地に転がらせ、治療――その繰り返しを続けていた。

 しかし、一戦一戦の戦闘継続時間は伸びているので意味はあったと言えるだろう。


「よーっし、1日目は終了だ。1時間休憩を挟んで再開だ」


 棒をグルグル回した後に先端をカンと打ち付けて、赤猿が倒れている水樹へと言い放った。

 地に伏す屍の如く身動ぎしない水樹の下へ、治療の為に静流が小走りに向かって行く。そんな様子を眺めながら赤猿は「ふぅ……」と一息吐く。

 成長速度は驚異的ではある。しかし、神と渡り合うにはまだ足りない。

 更に言ってしまえば救出先は水蛇の本拠地であり、水蛇だけを相手にするワケではない。静流と赤猿が手助けするにしても、戦力的には圧倒的に不利である。

 それでも水樹は「行く」と言うのなら、赤猿としても応えないワケにはいかない。元々、こういった展開が大好物であるだけに割と気合が入っている。


「……神刀の保有権能は不明、発現の兆候もなし。曾爺さんの遺物である腕輪も不明。手紙には意味深な言葉のみ」


 赤猿は現在の置かれた状況を整理する。

 残された時間的にも波斬の権能の発現は諦めるしかないかも知れない。腕輪に関しても検証するにも時間が惜しい。水樹の曾祖父である手紙も前半の水樹へ対する挨拶以外は『――時が来れば、それ腕輪は応えるだろう』という一文のみ。


(間違いなく坊主の曾祖父・雨柳蕪村は神――雨龍武尊だ。本来、神と人との間に生まれた子に坊主のように色濃く神力は継承されない。その証拠は坊主の親父だ。だが、どうしてか孫である坊主にはほぼ完全に継承されている。それは何でだ?)


 神であるならば水樹が神力を有している事は認識している筈。そうなれば直ぐに対策を打つだろう。それこそ神の顕現を利用して物心つく前に神力を簒奪してしまえば話は早い。

 だが、現実は簒奪されていない。いや、知っていて敢えて放置したと言うべきか?


(神刀・波斬は曾爺さんから後天的に与えられたものだろうな。神力は坊主が生まれながらに有していた――神力の波長が合わないが故に波斬の権能が発現しないと考えるべきか?)


 治療を受けている水樹へ視線を向けながら、赤猿は考えを巡らせる。


(人間が神力を保有していた場合の厄介さは理解している筈だ。それが自身の孫であるなら猶更、厄介事とは無縁にさせたい筈。それと神に寿命は無い。しかし、坊主の曾爺さんは既に逝去している。そうなれば――――、)


 赤猿は1つの仮設に辿り着く。


(何者かによって殺された――神を殺せるのは原則として神だけ。なら、神に殺神犯がいる? いや、神が神を殺した場合、その理由の是非問わずに堕とされる。そうなれば現世に存在しねぇし、堕とされたならオレでも感知している筈だ)


 雨柳蕪村の死因は何か? 雨柳蕪村=雨龍武尊であるならば、出回っている表向きな死因は当てにならない。


(……調べる必要があるみてぇだな)


 顎に手を当てながら、赤猿は思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る