第3章6 『襲撃』
HRが終わり、放課後――。
水樹は朱華たちと共に校門を出て歩いていた。
これからカラオケに行くか、某大型ショッピングモールへ行くかでわちゃわちゃしている中、水樹はボヤーっと空を眺めながら自転車を押していた。
「雨柳君、眠たそうだね?」
朱華が心配そうに声を掛けてきた。
どうにも疲れが抜き切れないのは、まだ身体が慣れていないからだろう。あと一週間もすれば適応してくるのだろうか?
「まあ、眠たいのは眠たいけど、耐えられないほどでもないから問題ないぞ」
大きな欠伸をしながら言ったその言葉は実に説得力が無いものである。
朱華は勿論、他の4人も呆れ顔で水樹を見ていた。
「つーか、雨柳がやっているトレーニングっていったい何なんだ?」
仁が興味津々に言う。
水樹が赤猿と行っているトレーニングは単純明快で実勢経験を積むという意味での模擬戦。死なない程度に赤猿が水樹をボッコボコにするいう鬼畜使用。なお、大なり小なりの傷は全て静流の神力で治されるのでアフターケアもバッチリである。
――と、そんなトレーニングな為、やはり事情を知らない他人に話すのは憚られる。
「まあ、俺がボッコボコに蛸殴りにされるトレーニングだな」
「……そんなバイオレンスなのがトレーニングなのか?」
水樹の答えに仁が引き攣った表情を浮かべる。それは他の4人も同じようであり、祈が口を開く。
「そもそもそれってトレーニングなん?」
「まあ、おかげで結構動けるようにはなった実感はあるから、十分トレーニングの要件は満たしていると思うけど? ただ、過激なだけでさ……」
遠い目をしながら水樹は言う。
思い出せば高笑いしながら攻撃を仕掛けて来る赤猿。興が乗れば神力開放状態で仕掛けて来るので質が悪い。それでも水樹にとっては十分過ぎるほどの価値があった。
「ま、アタシから言える事は無理すんなって事くらいか」
「ま、それは俺も同じかな」
花恋と帝は言った。
そうこうしている間に、水樹たちの目的地は某ショッピングモールに決まった。
他愛のない話をしながら歩いていると、仁が訝しげな表情を浮かべて口を開いた。
「……なあ、なんか人通りが……車の通りが少なくないか?」
その言葉を聞いて、全員が周囲を見渡す。
仁の言う通り、明らかに人と車の通りが少なかった。
この光景、現象――少なくとも水樹だけは覚えがあった。
「――まさか……」
「ああ、そのまさかだよ」
声が聞こえた。
水樹は直ぐに上へと視線を向ける。そこに居たのは数日前に橋の上で出会った男――神。
「えっ⁉ 人が浮いとるばい!」
祈が驚きの声を上げる。
「……水蛇だったか?」
水樹は静流と赤猿が告げた名前を口にする。
すると、男は感心したかのように拍手をする。
「彼女に聞いたのかな? ああ、正解だ。ボクは水蛇。君を――引導を渡す神だ」
瞬間、水樹へ向かって水の鞭が放たれる。
殺気を感じ、水樹はすぐさまに波斬を顕現させ、放たれた鞭を全て斬り伏せる。
「っ――あっぶねぇ!」
赤猿とのトレーニングが実を結んだ結果ではあったが、状況は非常によろしくない。
唖然としている朱華たちを背に水樹は波斬を構える。
「雨柳君、その刀は⁉」
「ちょいちょい、朱華? それよりも神ってなんばい?」
「ふーん、実に可愛らしいお嬢さんじゃないか? ああ、彼女たちをボクの為の孕み袋にするのも良いかな?」
気持ちの悪いニヤケ顔を浮かべながら水蛇が宣う。
「させるとでも?」
「君にボクを止める事ができるのかな?」
水樹は鋭い視線で水蛇を睨みつけ、水蛇は挑発するように言った。
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