第3章5 『昼休みの一幕』
神による襲撃を警戒しながら、赤猿による鍛錬をみちっり熟す――そんな日々を水樹は送っていた。
その疲れも溜まっている事もあって、最近の水樹は学校でも机に突っ伏している姿が増えた。そうなってくると彼を心配する者も自然と出てくるものだ。
「えーっと、だいぶお疲れみたいだね?」
「ん? ああ、西野か。近頃身体を鍛えるトレーニングを始めたんだが、疲れっていると言えば疲れてる。四の五の言っている場合じゃないんだけどな。つーか、アイツ厳し過ぎんだろ」
昼休み開始早々に顔を顰めながら
普段から「運動は悪だ」と宣うほどに運動が嫌いな水樹が、身体を鍛えるトレーニングをしているだけで彼を知る者は皆驚きを隠せない。
「ちょいちょい、まさかのトレーニングって遂に気でも狂ったん?」
祈が目を丸くしながらそんな事を言う。実に失礼な奴である。
だが、仁、花恋、帝も同意見のようで「確かに~」なんて口を揃えて言う。
言われても仕方ないとは水樹も思ってはいるが、1人くらいは労いの言葉を掛けても良いのでは?――と水樹は思ったりする。
「ま、この感じだと婚約者繋がりなんでしょ?」
「あー、その通りと言えば、その通りなんだが……」
花恋の言葉に対し、水樹は妙に歯切れの悪い回答をする。
静流関連と言えばその通りなのだが、それよって「みんなが狙われるかも」とも言えず、勿論その為にも鍛えているとも言い辛い。
「なーに言葉に詰まってんだよ? 寧ろ、静流ちゃん以外にどんな理由があるんだよ?」
「まあまあ、仁の言いたい事もわかるけど、水樹にも事情があるんだろうさ」
仁を宥めるように帝は言う。
ふと、朱華がジーっと水樹の顔を見ている事に気付いた。
「? 西野、どうしたんだ?」
「ううん、何でもないよ。だけど、疲れが溜まっているのなら程々にした方が良いんじゃないかな?」
「まあ、確かにその通りなんだけどな……」
水樹自身、今のままであれば実力不足。橋の上で遭遇した神による襲撃があった場合、自分の身は愚か、友人や家族すら守れない可能性がある。それを危惧して赤猿もスパルタ的トレーニングを行っている。
水樹としてもやると決めた以上はやり切りたいし、何よりも後悔はしたくなかった。
「疲れは溜まっているけど、やるって決めたのは俺だからさ」
突っ伏していた身体を持ち上げると、水樹は手を組んで大きく背伸びをする。
「……ま、アンタがそう言うならアタシたちとしてもいう事はないね。だけど、授業中に居眠りだけはよしなよ?」
花恋が至極真っ当な事を言う。その立ち振る舞いはまさしくオカンである。
「わかっているよ。だから、昼休みにこうやってグダグダしてるんだからな」
あくまで現役高校生であり、勉学に励むのは基本である。それは水樹も重々承知しているので授業中に引き摺らないように授業の合間にグダっているのだ。まあ、それでも赤猿の苛烈なトレーニングの疲れは取れないのだが……。
「あー、それはそうと……最近身近で妙な男を見かけたりしてないか?」
水樹の問いに、5人は首を傾げる。
「妙な男? 何かあるん?」
祈が興味深そうに口を開く。
「何かあると言えばあるんだけど、見ていないのなら大丈夫だ」
水樹の言葉に5人は再び首を傾げるのだった。
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