第3章4 『クソの中のクソがヤツである』
「神に会ったんですか!?」
橋の上で神に遭遇した事を水樹が話すと、静流は大きめの声を上げた。
名前がわからないので、その時の印象や雰囲気、特徴、喋り方を静流へ伝えると「覚えがありますね」と何やら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「そいつはオレも覚えがあるぜ」
そんな声と共に赤猿が扉を開けてやって来た。
此処は水樹の自室の筈なのだが……。
「何でアンタがいるんだよ?」
「いや、手前の母親が晩ごはんはいかがですか〜って尋ねて来たんだよ」
「……何やってんだ母さん」
きっと赤猿を水樹の友人と誤解している。
昔から美波は自身の子の友人には甘いところがあるので、今更ではある。しかし、正体を話していないとは言え目の前の男は神なのだ。
「つー事で晩ごはんは一緒にあやかるからよろしくな。んで、その胡散臭い塩顔畜生腐れ糞神なんだが――」
名前を知らないとは言え、あまりにも酷い言われように水樹は苦笑を浮かべざるを得ない。
が、そんな水樹の表情を見て、赤猿は「オレの予想通りなら言い過ぎじゃねぇんだよ」と至極真面目な顔で言う。
「わたしの予想している神と彼が予想して神は同一でしょうね。実際、わたしとしても同意見です。何なら奇襲を掛けてくる彼の方がマシまであるでしょうね」
少しばかり棘のある言葉を言いながら、赤猿をジト目で見る静流。
赤猿は肩を竦めながら口を開く。
「高評価ありがとよ。とにかくだ、手前が遭遇した神の名は
「やはりわたしと同じでしたね。そして、その水蛇ですがとにかく女癖が悪い事で有名です」
「有名つーよりは、手当たり次第に人間の女をさらっては使い潰すクソの中のクソ。言っちまえばキングオブクソだ」
赤猿がここまで言い切るのだから、とにかくヤバい神である事は水樹も理解できた。
問題は何故水樹に接触して来たかだが……。
「概ね、嬢ちゃんを掻っ攫いたいんだろう。だが、ヤツが正面から突っ込んでくるほど熱くねぇ。搦め手を用いて嫌がらせ染みた事をやるのは視野に入れるべきだな」
それを聞くだけで厄介極まりない――と、水樹は思う。
「面倒な事に搦め手の盤外戦術を好む割には武勇もそれなりに優れている事でしょうか」
「あー、オレほどじゃねぇが、まあそうだな。あとは子分どもが鬱陶しいか?」
赤猿ほどの脅威は無いが複数による戦闘の恐れあり。面倒どころの話ではない。
「俺だけに仕掛けてくれたらまだ良いんだけどな」
「水樹、わたしの知る限り水蛇はそんな神ではありません。寧ろ、敵であれば家族や友人に手を出す事を厭いません」
「そう言うこった。ま、坊主の家族はオレに任せとけ」
「は?」
「おいおい、何だよその間抜け面は? 何だかんだオレも世話になってんだ。オレは受けた恩は必ず返す主義なんだぜ?」
赤猿はそう言って親指を立てる。
どうやら水樹が知らない間に赤猿と家族間で随分と仲が深まっているようだ。
「わたしも水樹が学校の日は基本的に家にいますので任せてください。問題は――――」
「坊主の友人だろうな。特に女」
赤猿は真面目な表情を浮かべて言う。
「ヤツがどう動くかわからねぇ以上は警戒を強めるしかねぇ。坊主が気を張るしかねぇな」
赤猿の言葉に水樹は頷いた。
個人の厄介事に友人を巻き込むのは水樹としても本意ではない。
「つー事で坊主はきっちりとオレが鍛えてやるから覚悟しな?」
爽やかな笑みを浮かべて言う赤猿に、水樹は「わかった」と答えた。
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