息抜き短編集

天漿琴季

狙撃兵としての矜持

第1編 SNIPER TO SNIPER


「次、3-3-1の敵距離983、風速西から1ノット。修正の用なし」


「shot…命中。次」


「射点変更、隣のビルだ」


ライフルを抱え観測手スポッターと共にビルの中を走り抜ける

いつからだろうか、女子供に分類される連中が武器を持ち、軍事訓練を受けたのは

いつからだろうか、女を殺した数が男のそれを越したのは

いつからだろうか、8-30倍照準器の中で苦しみ死に絶える年端もいかない人間に、何も思わなくなったのは


いつからだろうが、俺がやる事は変わらない


「そこ射線通るぞ」


「あっぶね、セーフ」


間一髪でスポッターの1メートル程度先をライフル弾が素通りする

そいつは壁をM4カービンで撃ち抜き、その砂埃に紛れて通り抜けた


「今回の連中も武装JKとか言う連中か」


「聞こえはいいが多少の訓練を受けた少年兵、だが腕がいいやつが紛れてるな。見つけ次第空爆で吹き飛ばすぞ」


「付近の空軍は第7空軍の第117飛行旅団のF-15Eだ」


「十分」


射点につき、バイポッドを立てスコープを調整する

スコープを覗けば、見えるのは乱立し崩壊したビル

そして乱反射する水溜りと、スコープの美しい反射光


「2-9-8の高層ビル22階、あのえぐれた所」


「視認。距離469、無風。観測主から撃て」


「いや射手からやる」


俺は照準を定め、迅速にスコープを調整して呼吸を整える

2発、狙撃用徹甲弾が放たれ、薬莢が空を切る


「命中、右上腕と腎臓に直撃。重傷だ」


秒を切る連射で2名とも重傷。

敢えて生かして攻撃能力を奪う事で相手方の士気を奪う


「流石SR-25の精度だ」


「口閉じとけ。次、同じビルの29階、単独のヤツ」


「距離452、無風。撃て」


単独だろうがペアだろうが問題は無い。どうせ撃てば死ぬ

それを体現する様に、射手は頭に大きな彼岸花を咲き誇らせて地に伏せた


が、遂に反撃が来る。作戦目標はまだ達成していないので引くわけにはいかないので射点を再び変えて上階へと駆ける

階層にして48階。廃れた高層ビルの一室に逃げ込み戦術端末を開く


「さっきの射点がここ、で着弾位置がここ。推測されるのはこの3点。航空偵察と空爆でこの2点を潰した後に最後の一点を確かめる。デコイバルーンと適当なパイプを持ってこい」


「こりゃ危険な仕事だぜ」


そう言ってスポッターが部屋の外に出た後、俺はマガジンに弾を込めてスコープを取り外す


「そろそろか」


一層大きな足音がいくらばか鳴り響くのを確認した後、俺はSR-25に満タンの20連マガジンを取り付け、ホルスターのハンドガンをコッキングする


「おいスポッター。近場の部屋に閉じこもって身を隠しとけ」


「はい?」


「給料外の仕事の始まりだ」


俺はドアを蹴破り廊下に走り出すと、今登って来た階段にグレネードを投げ込み崩落した床から下階に飛び降りる

するとあら不思議、グレネードから逃げる為に何人かの人間が向こうに駆けている

その背中をSVDSで人数ジャストの銃弾で撃ち抜く


さらに下階への階段に制圧射を加えつつ撃ち抜いた連中に近寄る

人数は5人、一人は即死だったので残り4人の内で息の良い一人を残してハンドガンで止めを刺し、武器を回収してそいつを少し離れた部屋に連れ込み、アキレス腱を切った後拘束と止血をし、SR-25を立てかけその他の武器を乱雑に放り投げた後、その女の装備を剥いで物色


「かーっ!ガキがフルカスタムのM4にM955なんか詰めやがって。まあ良いわ。えー?んだこれ……花崎ぃ?まお前の仲間は後何人残ってる?」


「言うわけないだッあ゛ぁ゛ッ!」


女の足の指にナイフを突き立て口を塞ぐ


「御託はいいから。喋ったら殺さないでやる。まあ斥候狙撃兵の残虐行為とか誰も見てないし、見た奴は全員殺す。そもそも俺達PMCだから国際法とか知ったこっちゃないが。で?」


「あ゛ぁ゛……知るかよッ!狙撃班はほぼ死んだ!護衛の班はまだ数班ある!満足かッ!」


「えー雑魚。こいつら拷問訓練とか受けてないのかよ。まあ良いわ。まあ残敵がいるのは確かなのね。おっけさんきゅ、じゃあ寝てろ」


俺は1発顔面を殴り、そいつの無線機を点けて口を開く


「聴こえてるかなーッ!あんたらの仲間の花崎とかいう子は生きてるよッ!早く助けてあげないとね!じゃあ待ってるよーッ!」


そう言って無線機を放り投げ、少しの仕掛けをした後に装備とM4とそのマガジンを拝借し部屋を出る。やっぱり近くに仲間がいるのか、足音がする

角を一つ一つクリアしながら、その部屋の近くで射線が通らない所で獲物を待つ

いや、待つまでもなくすぐに来た。無警戒に足音を鳴らし近づいてくる


ドアノブを掴み部屋に入った後、中から何やら声が聞こえる

いやぁ、遺言でも考えておけばよかった物をと思った途端、部屋の中で爆発が起こり、それを合図に角を飛び出しM4ライフルを土煙の中に乱射しつつ距離を詰める

ただ所詮30連マガジンmすぐに弾切れとなってしまったが、マガジンを投げ捨てるファストリロードで次弾を込めてボルトリリースレバーを叩く


部屋の中にグレネードを投げ入れ、次の角からゲリラ撃ちで撃ち合いを起こす

ここで俺は死体を拝借、その手を撃ち抜かせて痛みに喘ぐ声を上げ引き下がり誘引する

ほーら引っかかった。ゾロゾロと通路を歩く音がするので、俺は射線が通らない様に壁にグレネードを当てて反射させる

同時に死体を盾に飛び出し、M4ライフルをマガジン分打ち切るとそれを投げ捨てSR-25に交換、20発を全て撃ち切ると次にハンドガンを抜き歩を進める


「息があるのは2〜3人か。捕虜にしちゃ多いな」


その時、俺は通路の向こう側…崩壊した壁から見える景色に、一つの反射光を見た

そしてほぼ本能的な行動で床に伏せ、死体を盾にSR-25をリロードしスコープを取り付けようとするが、微かに見えた袋を撃ち抜かれスコープを破壊される

もはや取れる手段はない。盾にした死体が着々と削られるのを待つしかない…わけじゃない


その瞬間、向かいのビルの狙撃兵のいる階が突如爆炎に巻き込まれる

GBU-12、誘導爆弾の精密爆撃…だが俺は要請していない


「命中、追加攻撃の用なし。離脱せよ」


その声は、いつもおしゃべりでビビリで、その癖優秀な、憎めないスポッターの声だった


「迎えのヘリを要請しました。このビルの最上階です。戦利品を纏めたら帰りましょう」


「帰ったらいっぱい奢りだな。報酬からの差し引きになるが」


「そりゃないですぜ兄貴ィ」


スポッターの差し伸べた手を取って立ち上がり、お互いに軽口を叩く

あぁ、やはり俺達の頭はイカれてる。今日だけで何十人と殺したのに、何十という死体に囲まれているのに


ブラックホークのローターが空気を叩く、その音だけが荒廃都市に響き渡っていた



PMC ローズレス 極東方面支部報告

第二機械化歩兵大隊 大隊司令部直属

斥候狙撃第1班 狙撃兵⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ 観測手⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎


作戦活動地域 ⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎区 作戦目標 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ 結果:達成


戦果 狙撃兵17 護衛歩兵28 報酬:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎万⬛︎


損失:8-30倍狙撃用照準器(報酬から差し引き補填)


使用弾薬費

Mk.316Mod3 狙撃用徹甲弾 49発(報酬から差し引き補填)

7N31拳銃用徹甲弾12発(同分)

Mk2グレネード(同文)


備考:レーザーサイト、光学照準器他多数のカスタムパーツ並びに多量の5.56×45mm M855A1およびM955弾を鹵獲。使途は狙撃第一班に一任する

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

息抜き短編集 天漿琴季 @Kaltzaf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ