第6話 神は何時だって貴方に試練を与える


昼食を終えたミュージーは王城内にある扉の前に立っていた。


ミュージーが扉の前に立って自身の掌を突き出すと、その扉から魔法陣が浮かび上がり青白く光り出した。


「第一特殊治安部隊のミュージー、只今参りました」。


『どうぞ』。


その魔法陣からの応答を聞いたミュージーはそのまま扉を通り抜けていった。


扉の先は厳かな空間が広がっていた。


書物がぎっしりと揃えられている本棚が室内を囲むように壁沿いに置かれていた。


他にもポンズ王国の国旗と軍旗が室内の奥に立てられていた。


「失礼します」。


ミュージーが卓上で書類を書いている男にそう声をかけながら一礼した。


軍事職員と同様にその男も紺色の軍服を着用していたが、職員達とは異なり数多くの略章を身に付けていた。


「ああ、昼時にすまないね。かけたまえ」。


その恰幅の良い中年の男はミュージーにそう言いながら、目の前にある黒い応接ソファーに座るよう促した。


「...失礼します」。


ミュージーは再び一礼してそのソファーに腰かけた。


「ミュージー君、貴重な昼休憩なのに申し訳ないね。食事もまだ済ませていないだろう? 」。


「いえ、先程済ませてきました」。


「そうか」。


その男は頷きながら掛けていたメガネを外しつつ立ち上がり、机を挟んだミュージーとは向かい側のソファーに腰かけて面と向かい合った。


「どうだね? 部隊の方は? 」。


「ええ、色々と大変ですが隊員達にサポートしてもらいながら、毎日充実した生活をさせていただいております」。


ミュージーがそう答えると、その男は微笑を浮かべながら再び小さく頷いた。


「まぁ、君のような非常に優秀な人材はそう現れないからな。君の実力であれば十年もしない内に佐官への昇進、軍本部内においての重要なポジションを任せられる事も夢ではないだろう...私の立場も危うくなってきたな」。


その男が苦笑しながらそう言うと、ミュージーは困惑した様子で首を横に振った。


「とんでもございません、未熟者の私がそんな大それた事など考えられません。カバリツ副司令官の足元にも及びませんよ」。


ミュージーがそう答えると、カバリツ副司令官という名の男は神妙な表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。


「ふむ、ところで君は特殊治安部隊に配属されてどのくらい経つのかね? 」。


「はい、もうすぐ二年経ちます」。


「ふむ...」。


カバリツ副司令官はミュージーの言葉を聞くと神妙な面持ちのまま立ち上がり、ミュージーから背を向けて外の風景が見える窓辺の方へゆっくりと歩き出した。


「そうか、二年経つか…」。


カバリツ副司令官はミュージーに背を向けたまま、独り言のようにそう呟いた。


「...」。


ミュージーはそう言ったカバリツ副司令官の背中を神妙な表情で見つめていた。


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