第5話 方は貴方だ


ポンズ王国にそびえ立つ白亜の巨大な城。


その城は国王陛下テンポ=ジャイアンの王城である。


ミュージーは王国の士官学校を卒業した後、王国の特殊治安部隊という部隊に配属された。


そして、その特殊治安部隊の小隊長として王城内の施設で任務をこなしながら生活をしていた。


ちょうど昼休憩の時間、ミュージーは王城にある食堂へやってきた。


王城の広い食堂内にはミュージーと同様、白いマントが付いた銀色の鎧を装着した兵士と紺色の軍服を着ている軍事職員がテーブル席で昼食を取っていた。


「やぁ」。


ミュージーがそう声をかけると、テーブル席で食事をしている数人の兵士達は立ち上がって軽く会釈を返した。


「ミュージー小隊長! お疲れ様です! 」。


「ここ、いいかい? 」。


「はい! どうぞ! 」。


「ありがとう」。


ミュージーは兵士達にそう言いながら空いていた席に腰を下ろした。


「”オーダー”」。


ミュージーは目の前の卓上に浮いている魔法陣に口を近づけてそう告げると、その魔法陣が青白く光り出した。


『承ります』。


その魔法陣から音声が聞こえてきた。


「カツカレーでライスは特盛、あとトッピングで”アンデシン”のカット肉特盛を頼む」。


『はいっ! かしこまりましたっ! 』


声の主がそう応答すると、魔法陣の輝きが消えていった。


「小隊長、その籠は何です? 」。


兵士の一人がミュージーの膝に置かれているバスケットを指差した。


「ああ、早朝にポンズ教の大聖堂に用事があってな。そこで幼馴染の修道女から差し入れを貰ったんだよ。良かったら、君達もどうだい? 」。


ミュージーは兵士達にそう声をかけつつバスケットからサンドイッチを取り出し、卓上に置いてある取り皿にそれを載せ始めた。


「あっ! いただきますっ! 」。


「しかし、小隊長凄いですね~! 毎日てんこ盛りの料理を食べるのに、その上サンドイッチも食べるんですか~? 」。


「小隊長は大食漢だもんな~! 」。


兵士達が感心しているような口調でそう言っていると、ミュージーは半ば不服そうな様子で片眉を吊り上げた。


「おいおい、兵士たるもの何時、何処においても有事に備えておく必要があるんだ。しっかり食べておかないと業務に支障をきたすぞ? 」。


「いやぁ~! 小隊長の場合は限度を超えてますよ~! 」。


兵士がそう返すとミュージーは首を横に振りながら肩をすくめた。


「しっかり食事を取るのも訓練の一つだぞ? 我々は兵士なんだからフィジカルはしっかり鍛えないといけないぞ? 」。


「いや、そうですけど~」。


ミュージー達がそんなやり取りをしている時、黒いロングドレスを着用し頭には白いレースのカチューシャを身に着けた女性が料理を載せたお盆を運んできた。


「お待たせしましたぁ~! カツカレーのライス特盛、”アンデシン”のカット肉特盛付きで~す! 」。


女性はそう言いながら大皿に載ったかき氷の様に盛られているカツカレーをミュージーの目の前に配膳した。


「ありがとう」。


ミュージーが微笑みながら礼を言うと、その女性は嬉々とした様子で目を爛々とさせながら軽い足取りでその場から離れていった。


「普通は卓上の魔法陣から食事が提供されるのに...」。


「そりゃあ、うちの小隊長は特別だからな~! 士官学校を首席で卒業した後にこの特殊治安部隊の入隊試験でも優秀な成績を残され、入隊初年度から小隊長として俺達の部隊をまとめてるんだぜ~? 」。


「俺達はこんな素晴らしい上官に出会えた部下の俺達は幸せだな~! 」。


「背も高いし端正な顔立ちだし、勤勉で秀才ときてるんだから非の打ち所が無いパーフェクトな王国兵士の鑑ですよ~! 」


「ミュージー小隊の隊員として私も鼻が高いですよ~! 」。


「...そんなに僕を持ち上げてもサンドイッチしかでないぞ? 」。


ミュージーは兵士達の言葉を気にも留めていない様子で淡々とカレーを口に運び始めた。


「きゃ~! ミュージー少尉が私に微笑んでくれたわぁ~! 」。


「いいなぁ~! 夕食の時は私だからね~! 」。


「ミュージー少尉かっこいいなぁ~! やっぱり彼女いるのかしら? 」。


「そりゃあ、いるでしょう~! 」。


「そうよね~! 」。


隅に佇んでいる若い女給達ははしゃぎながら目を輝かせ、黙々とカレーを食べているミュージーを見つめていた。


そんな時、軍服を着た軍人がミュージー達の下へ足早にやってきた。


「ミュージー小隊長、食事中に大変恐縮ですがカバリツ副司令官が御呼びです」。


その軍人が厳かな口調でそう言うと、兵士達は怪訝な表情を浮かべてお互い顔を見合わせていた。


「...分かった、すぐ行くと伝えてくれ」。


ミュージーは気にしているような素振りも見せずにその軍人にそう答えると、カレーをむさぼるようにさっさと掻き込んだ。


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