僕は両方なくしてしまった
ある時、気が付いたら「おまえは一生結婚できないよ」と決まっていた。その気持ちって、分かってもらえるだろうか。
僕はちょっと図にのっていたかもしれない。
物心ついた時には、もう僕は誰よりも特別な存在で、国を守る宝で、王様でさえ僕に敬意を払う。そんなことをされて、自慢の鼻がぐんぐん伸びて、偉そうにしない奴がいたら教えて欲しい。
僕は何をしても本気で叱られないと知っていて、えばりん坊のわがままな、人を見下したいけ好かない子供だった。だから友達はほとんどいなかった。
女の子達はけして僕に近づくことは無かった。将来絶対結婚することは無いし、うっかり仲良くして、聖獣様のご機嫌をそこねたら、何をされるか心配なのだろう。
でも、パリーバルバルがいてくれたから。何にも寂しくない。
もふもふで包んで、いつでも話を聞いてくれた。
14歳の時、同い年の可愛い王女様に恋をした。
僕は国で一番大切にされている、誰もが僕に頭を下げる。
でもみんなはできることが、僕だけ許されない。
結婚できないという本当の意味が、頭じゃなくて心で理解できた。
とてつもない寂しさが襲ってきて、パリーバルバルが話しかけてきても、すねて返事をしなかった。
そうして……気が付いたら、パリーバルバルと話ができなくなっていた。
パリーバルバルがいるから結婚できないのに……
でも、パリーバルバルがいてくれるから、僕は寂しくなかったのに……
僕は両方なくしてしまった。
そばにはいてくれるけど、もう話せない。
もふもふにくるまりながら、僕はずっと独りぼっち。
18歳のあの日、ミリアがダンスに誘ってくれた。
あの瞬間、僕に手が伸びてきて、けして抜け出せないと思っていた場所からミリアは引っ張り上げてくれた。
「私は醜いので、誰とも踊ってもらえません。目をつぶってもらえたらきっと大丈夫だと思うんです。一回だけ踊ってもらえませんか?」
醜い顔だというけれど、どんなによく見ても可愛い顔にしか見えなかった。
パーティーでダンスを踊った。
夢の中みたいに嬉しくて、僕は踊りながら泣いてしまった。
ミリアがびっくりしてハンカチでふいてくれた。
「どうしたの?」って聞くから「うれしくて死んじゃいそう」って答えたら。
「わたしもうれしくって死んじゃいそう」って言うからびっくりして涙が引っ込んだ。
それから僕たちは友達になった。
ミリアは私は黒目が離れていて、とても醜い顔なのだとしきりに言った。
14歳の頃から急に親しかった令嬢たちが急によそよそしくなって、17歳の今では、だれも友達がいないのだという。従妹に相談すると、みんなあなたが醜いから近寄りたくないのよと言われたらしい。
実際パーティー会場では、男性も女性もミリアに近づかない。
とても不思議だった。ミリアはとても可愛い。目のこと気にし過ぎだしむしろチャーミングポイントに見える。僕は彼女の目が大好きだと思った。
友だちがいなくて、人から遠巻きにされる寂しさを僕たちは知っていた。
だから、二人でパーティーを楽しんだ。お喋りをしてダンスして、またお喋りをした。
何度目かのパーティーで、噂を教えてくれる者がいた。
「彼女は呪いの目をもっている。聖獣持ち様でも気をつけた方がいいですよ」
なんと、ミリアは彼女の従妹の嫉妬で、「呪いの目をもつ魔女」の噂を流されていたのだ。
だからみんな、ミリアに近づかなかったんだ!
聖獣持ちの僕がちょっと後ろに立って、ささやけば、問題はすぐに解決した。ミリアの従妹は聖獣様が怒ると言われて飛び上がって震えて謝ってきた。
僕はミリアを守ってあげられた。誇らしくて、僕かっこいいと満足だった。
でもすぐに、馬鹿なことをしたと後悔した。
噂が従妹のでたらめだと分かると、男たちがすぐにミリアに近づいてきた。
それはそうだ、だってミリアはこんなに可愛いんだから。
僕が婚約者になれればいいのに……
ダンスを申し込まれる彼女を遠目に見ながら、僕はもふもふにくるまるしかなかった。
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