いいかげんにして
なんとなく、旦那様はバーンって部屋に飛び込んでくるのかなって、想像していました。
二カ月も放置された妻でありながら、そんなこと考えちゃうのは変なんですけど、やっぱり私は人前限定とはいえ、溺愛されていたのです。
だから、旦那様を想像する時、すっごい甘々バージョンと、涙がでちゃう拒絶バージョンが、シーソーのあっちと、こっちに載ってます。久しぶりの再会の胸の高ぶりのせいでしょうか、甘々の方に気持ちが思い切り傾いていました。
実際の旦那様はやって来ると、そのどちらでもなく、しょんぼりワンコでしおしおと、両親に挨拶しました。
「僕が悪いんです、不甲斐ないんです、駄目駄目なんです、ミリアに寂しい思いをさせて、我慢させて、恥ずかしい思いをさせているのは、僕のせいなんです。」
え?
今恥ずかしい思いって言った?
旦那さまって恥ずかしい思いをさせている自覚があったんだー!!
「でも僕は、ミリア無しでは生きていけないのです。愛する妻を連れて帰えることをどうかお許しください」
父が厳しい顔で、ずばっと言ってくれちゃいました。
「そうは言ってもね、君たちはいまだ白い結婚とききましたぞ。愛するといいながらおかしな話です。やはりうちの娘が聖獣様のご機嫌を損ねているのではないですか?」
「僕の聖獣はミリアに嫉妬しません」
旦那様はきっぱりと答えました。
これです、これなんです。私が結婚を決意したのは旦那様のこの言葉があったからなのです。
旦那様の言葉通り、結婚式で誓いのキスをしても何も起こりませんでしたし、人前でチヤイチャしまくっても平気です。そうです聖獣様は私に焼きもちをやきません。
「それなら、どうして夫婦の契りがいまだできないのです?」
うわー今度はお母さまが、思いっきり直接的なこと聞きました。恥ずかしいですが、それは私が最も知りたいことです。そして何度も旦那様に問いかけた疑問です。
無言……とよく分からない笑い。まさに笑ってごまかすときのあの顔。
百回は見た旦那様のこの顔、答えないんですよこの男は、何で私と初夜してくれないのか!
「旦那様が答えてくれないのなら、私は伯爵家へは帰りません」
私がそう言った瞬間、銃弾を胸に受けた人ってあんな感じに倒れるのかな……と言う感じに、旦那様が崩れ落ちるように床に手を着きました。
そしたら、彼の目から涙がボタボタボタっと。
「うあああ、ミリアああ」
気が付いたら、私は両親の目の前で、思い切り抱きしめられて、唇を塞がれていました。
ちょ、ちょ、ちょっとー、やーめーてー!!
いくら何でも両親の前では恥ずかしいです。旦那様の背中をバンバン叩いて、抵抗しますが離してくれません。そうしているうちに、パタンと扉が閉まる音がしました。両親がいたたまれなくなって、部屋を出たみたいです。
旦那さまが、その扉が閉まる音を合図に、キスを止めました。
「お帰りなさい旦那様」
2カ月ぶりの再会、会いたかったです、ぎゅってして欲しかったです、キスもしたかったです……両親の前でなくて。
「ただいまミリア、会いたかった」
部屋には二人きり。今ならいいんですよ、旦那様。
抱きつこうとすると、ぐっと両手で肩を押さえて止められました。
「ちょっと、君のご両親を呼んでくる」
「なんでですか?」
「……君にもっと触りたいし、キスもしたい。2カ月も離れていたんだから、我慢できないんだ」
「旦那様、今ここでしたらいいでしょう?」
「いや……ご両親の前でないとキスできないよ……よくない、二人きりはよくない」
はああ?
私の中で何かが切れました。
「いいかげんにして、もうがまんできない!パリーバルバル答えなさいよ、いったいいつまで私の旦那様にこんな馬鹿げたことを続けさせるつもりなの? 文句があるなら私に直接いいなさいよ! 本当は焼きもち焼いているんでしょう?」
思いっきり叫びました。
恐れ多くも、旦那様の神獣を呼び捨てにして、怒鳴りつけました。
雷に打たれるのでしょうか? 鋭いつららの雨に打たれるのでしょうか?
でも、もう限界でした。
だって、ぜったい神獣の焼きもちに決まってます。
両親の前でないとキスできないってなに?
青に紫が少し混じった不思議な色。
旦那様の瞳が、一気に紫色になって輝きました。
これは、旦那さまが神獣とお話ししている時の顔。見ているけれど、どこにも焦点を結んでいない。
ぞぞぞっと背中に悪寒が走りました。怒らせたかもしれません。契約者以外が神獣の御名を呼んだのです。しかも文句も叫びました。私はどうなるのでしょう?
旦那様の目の色が少しずつ青くもどってきて……
パチパチと瞬きをしました。
すくりと立ち上がると、旦那様が顔を両手で覆って、天を仰ぎました。
そして……
万歳すると、物凄い大声で叫びました。
「やったー!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます