第17話 準備!

 彼らはそれぞれ、半年間の目標を胸に準備を進めることに決めた。


 リアはナノマシンの解析に没頭しつつ、彼らの移動手段であるバイクの強化と装備を整える。

 過酷な旅にも耐えられるよう、頑丈さと戦闘時の機動性を最大限に引き出すことを目指していた。


 一方、ヴィオラは大賢者の山頂で記憶が蘇った際に思い出した古代の魔法を練習し始めた。

 長年封印されていた彼女の力は、まだ完全に馴染んでいない。

 しかし、過去の自分と向き合い、その力を自らのものとするため、日々鍛錬を重ねていく。


 ノアディルは、ルミナが腕から大鋏を出現させるように、自分もブレードを自力で出せるか試す決意を固めた。

 ルミナからはその技術を習得するための方法を教えてもらうことにした。

 ノアディルにとって、T-0のシステムを戦闘補助と解析に集中させ、ブレードの生成は自分自身の力で行うことが理想的だった。


 ルミナは自信満々に、「お兄ちゃんに全部教えてあげる!」と意気込んでいた。

 彼女がリッグから習った知識と技術が、ノアディルの新たな力の道しるべとなるかもしれない。

 こうして、それぞれが半年という目標を掲げ、今後の旅と戦いに備えて動き出した。


・・・

・・


 それから二ヶ月が過ぎても、ノアディルはブレードを出現させる術を得られず、焦りが募っていた。

 原因を突き止めるべく、リアはルミナのナノマシンを詳しく調べ始めた。

 結果、ノアディルが見つけた事実は思いもよらぬものだった。


「どうやら、ルミナの腕から生成されるNOAは、彼女の体内に入る時点で"別種"に変異しているわ」


 とリアが説明すると、ノアディルは驚きを隠せなかった。

 変異後のナノマシンはルミナ専用に適合しており、鋏の生成や接着剤の放出といった特殊な機能を持っているが、

 自己増殖ができないという特徴も同時に明らかになった。


「つまり、どれだけ訓練しても、俺にはルミナみたいな事はできないってことか……」


 ノアディルは肩を落とし、わずかに落胆の色を見せた。

 するとルミナは、彼を励ますように屈託のない笑顔を見せながら言った。


「でも、お兄ちゃんはそんなことできなくてもすごいよ! だって、二段階以上解放できるんでしょ? ルミナは出来ないもん!」


 その言葉に、ノアディルははっとした。


「……そうか。けど、実際には三段階以上を試したことがないんだ。三段階に達した時の記憶も曖昧で……これ以上、自分の限界を試す必要があるかもしれないな」

「お兄ちゃん、やってみなよ!」


 ルミナは楽しげに右腕から大鋏を出現させて構える。


「何かあったら、ルミナがちゃんと止めてあげる!」

「それなら、せめてその鋏じゃなくて、接着剤の方で止めてくれないか……」


 ノアディルは苦笑しながらも、決意を新たにした。


・・・


 二人はリアの近くにある開けた場所に移動し、修行の準備を始めた。

 三段階解放となるとノアディルの負荷が大きくなる可能性が高い。

 リアは何かあった時にすぐに治療できるように目を見張っている。


「さぁ行くぞ……」


 ノアディルは深呼吸をして気を落ち着かせると、まず1段階、続けて2段階と解放していく。

 徐々に身体がエネルギーに包まれていき、その後、3段階目に達すると、全身が赤いオーラに包まれた。

 オーラはまるで炎を纏ったように揺らめき、周囲の空気を震わせる。


「く……身体が熱い……意識も飛びそうだ……」


 ノアディルは苦痛に耐えながら、その先を目指そうと集中する。

 しかし、4段階目に挑もうとした瞬間、ルミナの声が響いた。


「待って! お兄ちゃん、背中に何か出てる!」

「背中?」


 驚きつつも、ノアディルはその言葉を聞いて背中に意識を向けた。

 すると、そこにはフランベルジュの刀身を思わせる、波打つ形状の炎を纏った刃が浮遊していた。

 刃は背中に半分埋め込まれているように見え、まるで彼の一部であるかのようだ。


「なんだこれ……?今まで全然気づかなかった……」


 即座にT-0を起動し成分を解析すると、AIが報告を返した。


「高密度に圧縮されたNOAによる刀身。温度は高熱状態を維持しており、従来のブレードモードと比べ、強度と切れ味が大幅に強化されています」

「これをブレードモードの代わりに使えば……!」


 ノアディルの表情に歓喜が浮かぶ。

 彼は慎重に背中の刃を引き出すと、それをT-0の装着部分に接続した。


「馴染んでる……! これなら、T-0のリソースのほとんどを戦闘補助と解析に回せる!」


 ノアディルがそう喜んだ直後、赤いオーラが一気に消え、ノアディルは膝をついてその場にへたり込んだ。

 3段階の解放状態が解除され、体力が限界に達していたのだ。


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


 ルミナが慌てて駆け寄る。

 ノアディルは苦笑しながら息を整える。


「なんとか……大丈夫だ。この刀身、使いこなせれば相当な戦力になりそうだ……」

「無理しちゃダメだよ!」


 ルミナは怒るように言いつつも、どこか誇らしげにノアディルを見つめていた。

 その後、ノアディルは地面に腰を落とし、息を整えながら背中に生じた新たな刃の存在に思いを巡らせた。

 T-0の解析結果を改めて確認し、その潜在能力に驚きを隠せない。

 ルミナは彼のそばに座り、軽く笑いながら言った。


「お兄ちゃん、すごいね。背中にこんなの隠してたなんて! でも、もう無茶はしちゃダメだよ?」


 ノアディルは肩で息をしながらも、少し笑みを浮かべた。


「ああ、わかってるさ。でも、この刃……これが使えるようになれば、これからの戦いで大きな力になる。可能性を試さずにはいられないんだ。」


 リアもその場に駆け寄り、ノアディルの状態をチェックする。


「エネルギーの使い過ぎよ。3段階目の解放状態だけでも体への負担が大きいのに、その上さらに4段階目を目指したら危険すぎる!」

「わかったよ……でも、4段階目を試す価値があるかもしれない。今回のように新しい発見があるなら、これからの準備をもっと効率的に進められるだろう。」


 ノアディルは慎重な口調ながらもその目に決意を宿していた。

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