第18話 途中経過
ノアディルは軽くストレッチをしながら、少し苦々しそうな顔で言った。
「にしても……第3段階で10分程度しか持たないのか。これじゃ持久戦なんて夢のまた夢だな。」
その言葉に、隣で座っていたルミナが首を傾げながら聞いた。
「お兄ちゃん、2段階はどのくらいの時間なれるの?」
ノアディルは額を拭いながら答えた。
「2段階なら30分くらいかな。それ以上だと消耗が激しくて……」
「お兄ちゃん!」
ルミナは大きな声を上げた。
「短すぎるよ! 自己増殖速度を上げる訓練とかしたことないでしょ!」
その言葉にノアディルは目を丸くし、思わず一歩前に出た。
「そんなことができるのか! ルミナ、教えてくれ!」
急に近寄られたルミナは頬を赤くしながら、少し照れた様子で
「お兄ちゃん、大胆だね……!」
と小声で言う。
ノアディルはその表情に気づいて慌てて一歩下がった。
「ごめん、興奮しすぎた……!」
「えへへ、大丈夫だよ!」
そう言ってルミナは笑う。
「ルミナの場合、1段階なら自己増殖速度の方が速いからずっとなれるよ。2段階も今は3時間くらい持つかな……最初はお兄ちゃんくらいだったけど!」
その言葉にノアディルは驚きを隠せなかった。
「俺なんて1段階で2時間が限界だ。 すごいな、ルミナ! 俺もできるのか? その訓練をここで試したい!」
ルミナは少し考える素振りを見せて
「うーん……ルミナは昔、マスターの指示に従ってやってただけだからなぁ。でもちょっと考えてみるね!」
ノアディルは真剣な表情で彼女に頼み込む。
「頼む! なんとか思い出してくれ……!」
すると、ルミナはいたずらっぽく笑いながら
「ぎゅーってしてくれたら早く思い出すかも!」
と言った。
ノアディルは一瞬戸惑いつつも深く息を吐き、ルミナを軽く抱きしめた。
「これでどうだ……?」
「えへへ……じゃあね、お兄ちゃん。まず最初にやったことを教えるね!」
満足げな表情を浮かべたルミナは、思い出すように目を閉じて話し始めた。
ノアディルはその話を真剣に聞きながら、彼女の言葉一つ一つを胸に刻み込むように頷いていた。
・・・
ヴィオラが仕上げとして行っていた山頂での修行を終え、リアの元に戻ったのはちょうど5カ月が経過した頃だった。
ラボに入ってきた彼女を見つけると、リアは満面の笑みで駆け寄った。
「ヴィオラ、おかえり!」
「ただいま」
ヴィオラはそう答えながら周囲を見回し、ノアディルとルミナが見当たらないことに気づいた。
「二人は修行してるよ! ノアディル、最近めちゃくちゃ強くなってきてるんだ!」
リアの言葉にヴィオラは微笑んだ。
「私も古代魔法を一つ習得したの。ノアディルと手合わせして見たいわね」
ヴィオラの誇らしげな様子に、リアは感心しつつ、突然頭を抱え始めた。
「みんな、確実に進んでるのに……ボクは最終段階から全然進まないんだよー!」
「そうなの?」
とヴィオラが問いかけると、リアは彼女の手を取り、「ちょっと来て!」とラボの奥へと連れて行った。
そして、リアが取り出したのは、小さな透明な小瓶に入った液体だった。
「これが、ご存じナノマシン!」
「そう……ナノマシンね。それで?」
ヴィオラが首を傾げると、リアは得意げな表情を浮かべる。
「一応、ロールバックが成功したの!」
「ロールバック……?」
ヴィオラの頭に疑問符が浮かぶのを見て、リアは慌てて補足した。
「うーんとね、パンを小麦粉とかミルクとか卵に戻す感じかな。材料ごとに分けたってこと!」
「それはすごいわね……」
ヴィオラは素直に感心したが、リアの表情がすぐに曇り説明をする。
ロールバックには成功し、材料に戻したはずなのに、それをもう一度結合してもナノマシンに戻らないようだ。
途中で何か決定的な要素が欠落してしまっているとリアは考えているようだ。
「んん……?」
ヴィオラにはまた疑問符が浮いていた。
「パンで言うと、元に戻したらミルクや卵はあるけど、小麦粉だけが消えちゃってる! みたいな感じかな」
「パンで例えてくれたら、何となく分かった気になるわね……!」
そして、ヴィオラは考えるような表情で、
「とにかく、足りない何かが全く分からず、進まないって事ね……」
と呟いた。
「その通り! 全く見当がつかないんだ……」
リアの落ち込む姿を見たヴィオラは、静かに肩に手を置いた。
「焦らずにやりましょう。私にもできる事は手伝うわ」
「うん……ありがとう、ヴィオラ」
そういってリアは立ち上がり、また研究器具の前に立った。
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