第15話 ルミナの謎

 ノアディルがルミナを背負って拠点へと戻ると、リアは驚いた表情で出迎えた。

 背中で眠るルミナに目をやり、彼女が驚きと興味の入り混じった視線を向けてきた。


「ねぇ、その子は誰?」


 リアが声をひそめて尋ねると、ノアディルは静かに答えた。


「俺と同じ……サイバーシティの研究所で実験されてた子だ」


 彼はルミナを優しく寝かせると、リアをその場から少し離れた場所に連れて行き、話し始めた。


「ここに戻る途中、T-0でルミナを解析した。その結果、彼女の体内に俺のナノマシン、[NOA]が宿っている事が分かった」


 リアは目を見開き、驚きの声を漏らした。


「え! 一体どういう事……!」


 ノアディルはさらに信じがたい事実を告げた。


「それだけじゃない。あの子の右腕……俺の右腕だ。細胞が完全に合致していたんだ」


 リアは困惑した表情を浮かべ、ルミナの右腕に目を向ける。

 たしかに、ルミナの右腕の肌の色はほかの部分と微妙に違っている。


「じゃ、じゃあ……NOAは右腕で自己増殖してるってこと? ノアディルの右腕があの子に移植されてるってこと……!?」


 その言葉に、ノアディルは深くうなずく。


「落ち着け。俺も正直、かなり驚いている。だが、それ以上に恐ろしい想像が頭から離れないんだ……」


 ノアディルはリアに視線を向け、真剣な表情で続けた。


「もし俺のNOAが他の人間に移植され、飛び抜けた強さを持つ者が量産されていたらどうなる? ルミナがその一例だとしたら……サイバーシティで、ナノマシンを利用した戦闘員が製造されている可能性がある」


 それを聞いたリアは、唇を噛みしめた。


「お兄ちゃん、それはないよ!」


 その時、突然後ろからルミナの明るい声が響いた。

 驚いて振り返ると、ルミナはすでに目を覚まし、勢いよくノアディルに飛びついてその膝にちょこんと座り込んだ。


「目が覚めたか」


 ノアディルが声を掛けると、ルミナは笑顔で抱きついたまま、


「おはよう!」


 と返していた。

 そんな二人の様子を見て、リアがぎこちなく微笑みながら挨拶をした。


「おはよう、ルミナちゃん。ボクはリアだよ。ねぇ、ちゃんと椅子に座ろうか……?」


 しかしルミナはむっとして、ノアディルにぎゅっと抱きついたまま


「いやー!お兄ちゃんとぎゅっとする!」


 と離れる気配を見せない。

 その姿にリアは少しイラっとしつつも、話を続けることにした。


「で、さっきの"それはない"って、どういうこと?」


するとルミナはニコニコしながら、


「お兄ちゃんと兄妹になれたのはルミナとアリスだけだもん!」

「アリスがいなければ右足もルミナのものだったのに、半分こしたんだよ」


 と矢継ぎ早に話した。

 ノアディルはその言葉を聞いた後ルミナを抑止した。そして、


「ちょっと待ってくれ……つまり、ルミナには俺の右腕が、アリスって子には俺の右足が移植されてるって事か……?」


 と尋ねると、ルミナは嬉しそうに「うん!」と元気よく答えた。


 ノアディルは驚きと戸惑いを隠せず、無意識に自分の右腕の辺りに視線を落とす。

 切断された自分の腕と足が、こんな風に使われていたとは——思いもよらなかった。


「詳しいことはルミナもよくわからないけどね!」


 そう言いながらルミナは腕から鋏を出現させ、


「でも、ルミナはお兄ちゃんの腕がないと、体内のナノマシンが増えないんだよ。だからお兄ちゃんのおかげで鋏とか出せるの!」


 と自慢げに語る。


 その言葉に、ノアディルはさらに複雑な表情を浮かべた。

 自分の腕が、そしてNOAがルミナにどんな影響を与えているのか——それがどんな経緯で、

 どんな意図でなされたのか、考えれば考えるほどに胸がざわつくのを感じた。

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