第2話 現地人

 ノアディルはふと目を開けた。

 そして、見ていた夢を思い出し少しだけ笑った。


「ふ……聞いた話と実際に覚えている事が混ざっていたな……」


 ノアディルは一息つき、T-0に再び問いかけた。


「この場所が何処か分かったか?」

「情報が不足しているため、現在の場所を特定することはできません」


 ノアディルはその答えにため息をついた。


「現地の知的生命体の脳をスキャンすれば、ある程度の情報は得られる可能性があります。」


 T-0の提案に、ノアディルは眉をひそめつつも続けた。


「知的生命体が居るか分からないが……今はそれを探すしかないか」


 ノアディルは、T-0をブレードモードのまま腕に装着し、さらに森の中へと歩みを進めた。

 この森は適温で非常に過ごしやすい。柔らかな風が葉を揺らし、心地よい空気が彼の周りを包む。

 時折、視界の隅に小さな生物がチラリと姿を見せるが、それらもまた未知の存在であり、見たこともない姿をしていた。


「リアはどこにいるんだ……」


 ノアディルはそう呟きながら、周囲を警戒しつつ探索を続けた。


・・・


 しばらくすると、T-0が


「デバシーのマップに、家のような建造物が表示されています」


 とデバシーのマップにマークを付けた。

 ノアディルはそれを確認し、すぐにその場所へと向かった。


 MAPの指示に従い、森の中を進んでいくと、大木に囲まれた静かな場所に、木でできた家がポツンと一つ建っているのが見えた。

 まるでこの広大な森の中にひっそりと隠れるようにして存在するその家は、自然と調和した佇まいを見せていた。


 ノアディルは慎重に家へと近づきながら、内部に何が待ち受けているのかを警戒しつつ、T-0に指示を送った。


「この家に何があるのか調査をしてくれ」


 T-0はデバシーを起動させると、小さな光の線が一瞬走り、ナノマシンが放出された。

 それらは非常に微小で、肉眼では見えないが、ノアディルの左眼に埋め込まれた高性能な義眼には、ナノマシンが散布される様子がはっきりと映し出されていた。


 ナノマシンは静かに家とその周辺に広がり、細部まで情報を解析し始めた。

 ノアディルはじっと待ちながら、義眼を通してその過程を見守った。


 ナノマシンは窓の隙間や玄関から家の中に入り込み、部屋の隅々まで探索を続けていく。

 しばらくすると、ナノマシンはデバシーに戻り、その際に集めた情報をアップロードした。T-0が解析結果をノアディルに伝える。


「家の内部には無数の本が積まれており、入り口は開いています。中には誰もいませんが、手入れはある程度行き届いており、生活感があります」


 ノアディルはその報告を聞いて、軽く頷き家に近寄った。


「誰かがここに住んでいたか、今も住んでいるのか……」


 彼は家の扉に手をかけながら、


「リアがここに来た痕跡があるかもしれない……」


 と呟き、家の中を探索する覚悟を固め、扉に手を掛けた。


 ノアディルは家に入ると、独特の匂いが鼻をついた。

 紙とインクの香りだが、ノアディルの時代にはこれらは使われておらず、彼にとっては初めて嗅ぐ不思議な匂いだった。

 目に飛び込んできた本を手に取り、無意識にページをめくってみるが、そこに記されている言語はまったく理解できないものだった。


「T-0、ここにある本をすべて解析してくれ」


 とノアディルはT-0に依頼した。


「この言語は不明ですが、情報自体は記憶できます。しかし、理解するためには現地人の脳をスキャンする必要があります」


 とT-0はすぐに応答した。

 ノアディルはそれでも念のために解析を続けるように依頼した。


「解析を続行します」


 T-0はデバシーからナノマシンを再度放出し、家中の本をスキャンし始めた。


 ノアディルはその間、家にある物すべてが新鮮で珍しく感じた。

 棚に並べられた本、瓶に挿された植物や花、すべてが彼の時代には存在しないものだった。

 興味深げにそれらを眺めていると、T-0から解析が完了したとの報告が入った。


「リアの痕跡は無いな……」


 そう呟きノアディルは家を出て、少し離れた場所から家の全体像を確認していた。


 その時、T-0が警告を発した。


「後方から熱源反応を感知。2.5秒後に着弾します。シールドで対応可能です。」


 ノアディルが身構えると同時に、背後から龍の形をした炎が飛んできていた。

 だが、透明なシールドが瞬時に展開され、炎はノアディルに到達することなく弾かれた。

 無傷のままのノアディルはT-0に状況を確認する。


「熱源反応が発生した場所に、人の気配があります」


 とT-0が報告すると、ノアディルはすぐにその場へと向かった。

 そこには黒いローブを纏った少女が立っており、驚いた表情でノアディルに向かって何かを叫んでいた。

 しかし、彼女の言葉はノアディルには理解できなかった。


 ノアディルは何とかジェスチャーで意思疎通を図ろうと試みたが、少女は再び手を振りかざし、炎を発生させようとしてきた。


 これ以上の交渉は難しいと判断したノアディルは、T-0を腕に付けたまま射撃モードに変形させバインドショック弾に切り替え、少女を狙って撃った。

 電撃が彼女の身体を包み込み、少女はその場で気絶してしまった。


「悪いな……」


 ノアディルは呟きながら、気絶した少女を抱え上げ、再び家の中へと運び込んだ。

 彼女をベッドに寝かせると、ノアディルはT-0に脳解析を依頼した。

 T-0は少女の脳波を慎重にスキャンし、その情報をノアディルの義眼を通して共有した。


 解析が終了して間もなく、少女は飛び起きた。

 ノアディルは身構えたが、少女が発した「なんなの!」という言葉は、今度は理解できるものだった。


「突然、すまない。ここは君の家か? 扉が開いていたので入ってしまったんだ」


 ノアディルはその少女に誠心誠意謝罪をした。

 すると、怒った表情だった少女は少しため息をつきながら、


「人が来ないと思って、私も不用心だったわ……貴方、名前は?」


 とノアディルの方をじっと見つめた。

 その時、とんがり帽子を脱いだ瞬間、暗い紫色のロングヘアがふわりと広がり、彼女の姿がより一層鮮明に映った。

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