第2話

「はぁ〜……どこかに私と付き合ってくれる女の子いないかな? 本当に誰でもいいんだけど」

ゆうには永遠とわッチいるじゃん?」

「それは却下で」


 あれから少しだけ時が進んで六月。

 私は手当り次第に可愛いらしい新入生の女の子に告白するも全敗で、一度も告白が成功する事のない日々を送っていた。


 『悠には幼なじみの《彼女》の永遠がいる』

 その認識のせいで、私は未だに年齢=彼女無しの経歴を更新中だ。


 小学生の時も、中学生の時も、高校生になった今でさえも、私と永遠はセットとして見られる。

 過去、『本当は永遠と付き合っているのに他の女の子に声をかけるのは浮気性なのでは?』と言われてしまい、永遠の親衛隊に嫌がらせを受けた事があった。


 嫌がらせは小学四年生の時から始まり小中と合計で六年間。

 永遠と一緒にいると嫌な目に合うと学習した私はわざわざ県外の女子校を受験したのである。

 それなのに永遠は付いてきた。これなんて言うホラー映画? ストーカー、ここに極まれりじゃん?


「だれ゙も゙私゙ど付゙ぎ合゙っ゙でぐれ゙な゙い゙〜」


 メソメソと机に突っ伏して泣く真似をする私の頭をクラスメイトのミサちゃんが頭を撫でてくれる。時々、頭のてっぺんを指で押してマッサージまでしてくれる。優しい。


「下痢ツボ〜」


 違ったね、うん、優しさと全然違った。

 小学生みたいな事をして私の頭で遊ぶミサちゃんを振り払う元気もなく……。その前に楽しそうな女の子は可愛い。例え彼氏がいたとしても。


 ミサちゃん、私の彼女になんないかなー? なんて不毛な事を考えていると、他のクラスメイトが私を呼びに来た。

 何でも一年生が私を呼んでいる、との事。名前は聞かなかったようで、体育館横の階段下で待っているそうだ。


 このうめ女子学園ではリボンタイかネクタイが選べ、さらにその色で学年分けがされている。

 なので相手が何年生なのか、すぐに分かるのだ。

 ちなみにどうでもいいだろうが私は身につけるならネクタイ派である。他の女の子たちはどちらも捨てがたい!

 リボンタイもネクタイもどちらも素晴らしいと思う!


 なんかふわっとした可愛い子だったよ(クラスメイト談)という言葉を信じて体育館横へと向かう。

 大抵、こういう呼び出し関連は必ず永遠絡みだ。


 『永遠先輩に渡してください!』

 『永遠先輩に伝えて貰えませんか?』

 『永遠先輩と付き合えるように協力してください!』


 etc……


 私の気持ちなどお構いなしで後輩たちは永遠へのワンチャンを狙って私に接触してくる。

 可愛い子が多いだけに悲しくなる。そして永遠への憎しみが増えるのだ。


「悠センパイ!」

「ごめん、待たせちゃって」


 体育館横の階段下には、クラスメイトの言うとおりふわっとした可愛い子がいた。


 ダークブラウンのふわふわしたウェーブのかかったセミロングの女の子。

 パッチリお目々にプルプルの唇。少しブカブカのブレザーの袖口から覗く大きめのカーディガン。さらにそこからちょこんと見せた指先には桜色の爪先。そろそろ初夏だけど暑くないのかな!?


 だがしかし! そう! めちゃくちゃ! 可愛いのである! ……ある! …………ある! ……………………ある!(エコー付き)


 えぇ…………、永遠、ズルくね?(血涙)


 永遠への憎しみがさらに倍増する。ドラッグストアのポイント倍増キャンペーンよりも二郎系ラーメンの山のような野菜よりも憎さ増し増しである。


「……センパイ?」


 首を傾げて私のブレザーの裾をチョンチョンと引っ張るあざとさにプラスして、後輩ちゃんの造型の可愛さに無事K.O.していた私は後輩ちゃんの仕草でも危うく昇天しかける。あったのね、つまり、ここが桃源郷。


「な、何かな? 永遠への言伝?」


 血反吐を吐きそうな程、何度も繰り返した台詞で先制する。こうしておくことで少しだけダメージを和らげる事が出来るのだ! ……本当に少しだけね。


「悠センパイ! 好きです! 羊子ようこと付き合ってくだしゃッ……か、噛んじゃった……」

「了解! じゃあ永遠に伝えて…………へ?」


 脳内がフリーズする。

 最後まで言えずに噛んだの可愛すぎるな。天然ちゃん? なのかな? 永遠ズルいな。私が幸せにしたい。ん? 待って? 『悠センパイ』って言った? ん? んんん?


「……………………me?」

「他に誰がいるんですか? 悠センパイ以外、いないですよっ」


 そう言うと後輩ちゃん改め羊子ちゃん(と言う名前っぽい)は私に抱きついてきた。

 私の頭一つ分と少し小さい羊子ちゃんは多分身長は一五〇センチギリギリあるかないか。


 そのふわふわで守ってあげたくなる愛らしい小動物感と突然の抱擁で早くも私の脳内のキャパオーバーです。ショート寸前です。ハイ。


「…………センパイ、だめ、ですか……?」


 羊子ちゃんのパッチリお目々に瞬く間に涙が溜まって、うるうるとした瞳で見上げてくる。誰だ! 泣かせるヤツは! あ、私!? 私なのか!?


「え……、逆に聞くけど、私で、いい、の?」


 何かデュフデュフ感が出ちゃった。最悪だ。またチャンスを逃しちゃう。いや、その前にコレは実は悪質なドッキリとか罰ゲームなのかもしれない。鎮まれ、鎮まり給え、私の期待感。


 でも、もう、止まれない。

 だって、チョロいかもしんないけど、私、もう、羊子ちゃん好きだもん。

 多分、死ぬまで、ずっと好きだと思う。そんな予感がする。運命感じちゃった。この子しかいないよ。騙されててもいい。


 ドクドクドクドク。すごく速い鼓動が体中に響き渡る。全力疾走した後みたいに、頭と心がクラクラしてきた。


「はい、センパイが、悠センパイがいいんです。あたしをカノジョにしてください!」

「むしろ付き合ってください!」


 意味不明な返事を返しつつも、晴れて私の年齢=彼女無しという経歴に終止符を打つ事になったのだ。めでたし、めでたし。








 

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