誰でもいいから付き合いたい! ※ただし、お前以外と!!
星乃 海実
第1話
「君、本当に可愛いね? 私と付き合わない?」
ざあ、と風が吹き、青々とした木の葉が揺らめく五月。春とまだ分類されるこの季節が私は好きだ。
私は右と左をようやく理解出来たぐらいの新入生の女の子を壁際まで追い詰めて、所謂、壁ドンをしながら女の子の顔を見つめた。
「み、
今、ご紹介に預かった(?)三沼先輩こと私、
ベリーショートで茶髪、灰青色の瞳はクォーターであるおばあちゃんからの遠い遠い遺伝。
そのせいか顔立ちは中性的で、時々、ハーフに間違われる。残念だが英語は喋れない。I can speak Japanese only.(日本語しか喋れない)
下校中、衆人環視の中で行われる白昼堂々の告白に、周りの生徒たちは「またやってるよ」と笑っている。
笑いたいヤツは笑えばいい。私と付き合えなかった事を後悔すればいいんだから。
本当にいいんだな? 今なら付き合ってもいいよ? お願いします。付き合ってください。
「あ、あの……」
「私に決めなよ? ね、子猫ちゃん? 大事にするよ」
連敗記録もそろそろ五百になろうとしている。ポジティブな私でも流石にそろそろ焦ってきた。
根っからの女好きである私は、去年、女子校であるこの学園に入学した。
大好きな可愛い女の子たちに囲まれて、先輩にも同級生にも告白したのに誰も私と付き合ってくれない。
ベリーショートと中性的な顔を活かして、王子様風に口調だって変えて、ありとあらゆる『モテる!』を試しているのに告白が成功しない。しかもモテない。
黙ってれば良い顔なんだけどね、とか、悠は良い友達だよ、とか、そんなのはもう聞き飽きた。
「じゃあ、彼女になってよ!」って言っても誰も彼女にはなってくれない。
「わ、わたし!
ほぉら、やっぱりね! その名前が出てくると思った。
一色先輩。
それは私と切ってもなかなか切れない縁で繋がっている、私にとって忌まわしい目の上のたんこぶのような存在だ。
「悠。年下にまで迷惑をかけてはいけないと思うの」
「出やがったな、
幼なじみで同い年である
時にはこうやって存在しているだけで邪魔をしたり、上手くいきそうな雰囲気の時だって、わざとらしく永遠の存在を匂わせたりしてくる。
おかげで私はこんなに女の子が好きで好きで堪らないのに、年齢=彼女無しだよ。チクショー!
私は心底ムカついて、永遠に向かってわざとらしく「うへぇ」と言って顔を歪めて見せた。
永遠は長い黒々としたストレートヘアを揺らして、真面目な顔で私の顎を指先で持ち上げる。
いつも思うのだが、その身のこなしは一体何なんだ?
油断しているわけでもないのに、他人のパーソナルスペースに入り込んで、顎を持ち上げるなんて忍者か何かか?
さっきの女の子を壁ドンする為に、ジリジリと反復横跳びしてるみたいな体勢で壁際に追い込んだのが何だか格好悪くて泣けてくる……。
それに遠いとはいえ外国の血が入っているにも関わらず身長一六ニセンチしかない私よりも永遠は十センチも身長が高い。必然的に見上げる形になるのだが、そんなところにも何だか殺意を覚える。
和風美人。実家もお金持ちで文武両道で性格は柔和。気も良く利いて、男性にも女性にも人気がある永遠は物心付く頃からの幼なじみ。
出会い自体はもう忘れてしまったが、幼少期から永遠にストーカー並みに付きまとわれていた記憶しかない。
何なら招待した覚えのない家族写真の端っこに写り込んでいた、なんて事もあったぐらいだ。幽霊かお前は。いや、やっぱりストーカーだった、うん。おまわりさん、コイツです!!
「誰でもいいなら、やっぱり私でいいじゃない。何が不満なの?」
「ぜぇ〜ったいに、イ・ヤ・だ・ね!」
永遠の手を払い落として拒絶すれば、周りからあがるブーイング。じゃぁかぁしぃ! ほっとけ!
何度も何度も邪魔してきて、あまつさえ、私にしろなんてどこの少女マンガだよ。
この永遠とのやり取りが実は学校の名物になってるって聞かされた時は目眩がした。
「悠〜、諦めな〜?」
「ミサちゃんが私と付き合ってくれたら解決するんだけどな!?」
「大好きなカレシいるから無理でぇ〜す」
クラスメイトの
入学したての頃に好感触だったミサちゃんも今ではすっかりお友達ムーブ。
何故ならばいつの間にか永遠から紹介された某有名大学に通う年上の男の人と健全なお付き合いをしていたからだ。なんでやねん。でも大事にしてもらえて良かったね、ミサちゃん(血涙)
自然とわなわなと肩が震える。私は堪らず空を見上げて叫ぶ。これが叫ばずにはいられるか!
「誰でも良いからァ! 付き合いたーーーい!」
「だから、私と――」
「ただし、お前以外と!」
ビシリと永遠に指を突きつけても、永遠はどこ吹く風で優しく微笑むだけだ。
余裕の表情。相変わらず、いつか必ず
周りもそれを応援してるみたいな空気なのが心底怖い。外堀を埋められている? いやいや、まさか、ね……?
「誰か、誰か! 私と付き合ってくれー!」
私の決死の叫びは虚しく橙色の空に飲み込まれ、誰も願いを聞き届けてはくれないのであった。
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