第2話 ココではないどこかへ

「ルナ! お前は自分がしてきた罪を分かっているのか‼」


 玉座に座り、眉間に深いシワを寄せたアインが大きな声を上げた。

 そのあまりに大きな声に、私は現実に引き戻される。


 こんな場でこんな仕打ち。私はハメられたのね。


 本来私が座るはずだった玉座の隣には、怯えた様子のサーシャが座っていた。


 そして私は玉座の前で騎士たちに後ろでに組み敷かれ、床に這いつくばらされている。

 『お前のしてきたこと』そんなもの知るわけもない。


「自分のいたらなさをサーシャをいじめることで晴らすなど、言語道断だ!」

「私の……いたらなさですか?」


 鼻で笑い出しそうになるのを、私は必死にこらえた。


 今日この瞬間まで、誰よりも努力してきたというのに。

 この人は何を言ってるのだろう。




 アインが国王教育をサボる間も、私を無視して、サーシャと仲睦まじくしている間も。

 ただずっと自分の全てを犠牲にして努力してきたというのに。


「そうだ! 自分が妃に向いていないから、サーシャをいじめたのだろう。お前とサーシャとでは器が違うのが分からないのか!」


 器ね……。

 何もせずに、ただアインの隣にいただけのサーシャ。


 そのくせ私の一番の味方だという顔をしながら、その実全てを奪っていっただけじゃない。大層立派な器ですこと。


「私は何もしておりません」

「まだ言うか! サーシャのモノを燃やしたり、水をかけたというのは分かっているのだぞ!」

「それはいつのことなのです? 妃教育は毎日、全ての時間に教師がついております。私にはそのような自由時間などなかったはずですが?」

「み、見たという人間がいる!」


 どうせ、あなたかサーシャの取り巻きでしょう。

 そんな証言に、どうして信ぴょう性があると思えるの。


 でも私の父すらこの場に呼んで断罪している辺り、すべて予定通りなのでしょうね。

 この場にいる人間にとって。


「アイン様以外も、皆その話を信じられたのですか?」

「当たり前だ。だからこの場に、関係者が呼ばれているのだろう」


 私はゆっくり周りを見た。

 国王様と王妃様以外、関係者はそろっていた。


 私の父やサーシャの父。

 それに現宰相となったランドと、ランドの父。

 この国の主要メンバーね。


 だからこの場での決定は、そのまま私の罪となる。


「……そうですか」


 父は昔から家が大事で、私のことなんか助けないとは思っていたけど。

 こんな時ですら、そうなのね。


「本来ならば、極刑だが……」

「アイン様、さすがにそれは可哀想ですわぁ。いくら罪を犯したとはいえ、ルナはアタシたちのお友だちではないですのぉ」


 だった、ね。


「サーシャ、君は本当に優しいな。ルナなどとは大違いだ」


 熱のこもった瞳でアインは隣に座るサーシャを見つめた後、その手を握った。

 そしてサーシャはアインの言葉が満足だったのか、微笑み返す。


 とんだ茶番ね。


 初めから彼が欲しいのならば、私の代わりにお妃教育だってしてくれればいいのに。


 でももういいわ。ココじゃないところに行けるのならば。

 もう今まで以上の孤独も苦しみもないでしょう。


「お前には利用価値があるからな。北の獣人国じゅうじんこくに嫁いでもらう!」

「獣人国」

「せいぜい、お妃教育を活用するがいい! まぁ、人の言葉が野蛮なケモノたちに通じればいいがな!」


 私は誰にも気づかれないように、ただため息を吐き出す。

 次期国王とは思えない下品なアインの笑い声が、ただこの部屋を支配していた。

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