12 主人公:アイゼリック・ホルス(アイゼリック視点)
それは――プリセラがアーロンに会いに行く、数時間前の出来事だった。
「あのときのことが、どうしても思い出せない――」
昼休み、アイゼリックは記憶を探っていた。
今から二日前、帰り道に一人の男子生徒と会った気がする。
そして、同時に恐るべき敵に出会ったような気がするのだが――どうしても思い出せない。
何か、とても重要なことを忘れている感じがして、どうにも不安だった。
「ん? どうしたの、アイゼリックくん。悩んでる?」
声をかけてきたのは、赤いツインテールと勝ち気そうな顔立ちが印象的な美しい少女だった。
プリセラ・ウィンゾード。
冒険者学園3年生。
学園最強クラスの剣士であり、アイゼリックと同じパーティのメンバーだ。
「ん、ちょっと……ね」
「君の方こそどうしたんだ? 随分とご機嫌だね」
「んー……ちょっとね。ふふ」
プリセラは嬉しそうだった。
元々学園一といってもいい美少女だが、なんだか最近の彼女はその美しさにさらに磨きがかかったように思える。
しかも、どことなく艶気まで出てきたような――。
アイゼリックはゴクリと喉を鳴らした。
彼女に惹かれている自分を意識したのは、半年くらい前だっただろうか。
「? どうかした? あたしの顔をジッと見て」
「い、いや、その……」
アイゼリックは思わず視線をそらしてしまった。
照れくさくて頬がカーッと熱くなる。
しかし、そんな関係が彼には心地よかった。
恋人同士ではないが、いずれはそういった関係に発展するのではないかという期待感が、胸の中を甘く心地よく浸していく。
「もしかして、あたしに惚れちゃった? ふふん」
プリセラが悪戯っぽく笑った。
これは――『脈あり』というやつだろうか?
「はは、もし答えがイエスなら――君はどうする?」
アイゼリックは踏み込んだ答えを返してみた。
彼女をジッと見つめる。
言外に今の言葉は軽口めいているが、事実を言っているんだぞと匂わせるような雰囲気を醸し出す。
きっとプリセラは照れたような表情になるのではないだろうか。
あるいは、もっとストレートに喜びを表すだろうか。
いずれにせよ、アイゼリックと彼女の間には恋人になる寸前の男女特有の、甘酸っぱい空気が――。
「えっ……」
プリセラの表情がこわばった。
「や、やだな。冗談だって。ごめんごめん」
真顔で謝ってくる。
予想外の反応だった。
まるで、今の言葉を本気で受け取られては困る、といった様子の――。
「あたしの悪い癖だよね。こういう冗談を言うのは、もう改めるね。本当にごめんなさい」
言って、プリセラは去っていった。
「えっ? えっ?」
アイゼリックは呆然と立ち尽くす。
まるで――振られたような心地だった。
いや、実質的には今のではっきりと拒絶の意志を示されたのかもしれない。
君とは友達止まりだよ、と。
「なぜだ……? 少し前まではいい雰囲気だったのに――」
アイゼリックは歯噛みした。
少なくとも親しい友人としての関係は築けていたし、最近は友人以上恋人未満の雰囲気になりつつあると感じていた。
もちろん、具体的に手を握ったとか、キスをしたとか、そういった行為があったわけではなく、あくまでも彼の主観の話なのだが――。
が、プリセラは急に憑き物が落ちたように、彼にそっけなくなってしまった。
まるで、他に好きな相手でもできたかのように――。
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