9 プリセラと二人きりで……
「なんだったんだ……?」
あっという間にいなくなった彼女たちに、僕は唖然となった。
「よかった。あーくんに悪い虫が付かなくて」
と、プリセラが僕の隣に座る。
「君がクラスの女子生徒たちに誘われて、こんな密室でお食事してるって聞いたから心配になって来てみたのよ」
「そんなに心配になるようなことなの……?」
「当たり前でしょ! どう考えても、彼女たちの目的はあーくんと、噂の第一等級スキルじゃない!」
プリセラがまくしたてる。
「僕のスキルって、そんなに噂になってるんだ……?」
「そりゃ、一日のうちにスキル等級が最高ランクまで上がるなんて前代未聞だからね」
プリセラが僕を見つめる。
「色々と詳しく聞かせてもらっていい?」
「えっ……?」
「君のスキルのこと。どうして、急にそんな力を身に付けたの? っていうか、一体どんなスキルなの? 女の子たちが注目するようなスキル効果なの? ねえ、ねえ」
うっ、めちゃくちゃ迫って来る……。
嫌だ、とは言えない雰囲気だった。
それに僕も、このスキルのことを誰かに相談したい気持ちはある。
結局、さっきの女の子たちとの食事会ではスキル内容の検証はできなかったわけだし……。
「うん、いいよ……」
「じゃあ、あーくんの部屋に行きましょ。二人っきりで話したいし」
というわけで――僕は寮の自室でプリセラと向かい合っていた。
「えっと……紅茶でも淹れようか?」
「それより君のスキルのことを聞きたいかな? おねーさんとしては」
「目が笑ってないんだけど……」
僕はタジタジだ。
「紋章を出してみて」
プリセラが身を乗り出した。
「えっ?」
「あたしは【スキル鑑定】を持ってるから、あーくんのスキル効果を調べさせてよ」
「えっ? えっ?」
「もし、本当にさっきの子たちが言ってたように、『女の子に何かすることで効果を得られる』タイプのスキルだったら――あたしがあーくんを守らなきゃ……ぶつぶつ」
プリセラの表情が険しい。
「ねえ、あーくんは第一等級のスキルをどうやって手に入れたの? 怪しい方法を使ってない?」
「怪しい方法って……」
「高位の魔族との契約」
プリセラが僕を見つめる。
その視線はゾッとするほど鋭い。
「あるいはそれ以上の存在――魔王との契約、とかね」
ぎくう!
僕は背筋がゾクリとする。
せっかくマルグリット先生の追及をかわしたのに、今度はプリセラが迫ってきている――。
「過去、魔王と契約した者は例外なく絶大な力を得ているの」
「絶大な力――」
息を飲む僕。
「ある者はその絶大な力を良き事に使い、英雄となった。ある者は己の欲望のために使い、稀代の悪党となった。あるいは広大な領土を統べる征服王になった者や、巨額の富を築いた者もいる――」
プリセラが謳うように告げる。
「みんな、歴史的な人物になってる……ってこと?」
「ねえ、もう一度聞くけど、あーくんは魔族と契約したんじゃない? そして第一等級のスキルを得た――」
僕の問いにかぶせるようにしてプリセラがたずねた。
「あたしは君のことが純粋に心配だから聞いてるの。もちろん聞いた答えを他言することはしない」
その目は真剣だった。
そして、僕を思いやるような光に満ちていた。
どのみち、この紋章のことを自分一人だけで抱えておくのは、さすがに気が重い。
信頼できる人に相談できれば、心強い――。
「……っていう感じなんだ」
僕は【色欲の魔王】に出会ってからのことをかいつまんで話した。
「……ふ、ふーん……つまり、その魔王とエッチなことしたんだ? しかもマルグリット先生とも……!」
「い、いや、それは行きがかり上というか、なんというか……」
責められるような詰問口調に、僕はしどろもどろになった。
でも冷静に考えると、どうして責められなければいけないんだろう? と頭の片隅で思ったけれど。
「あーくんの純潔が他の女に奪われるなんて……一生の不覚ね……」
プリセラがつぶやいている。
「で、他の女と交わって強くなることが、あーくんの目的なわけ?」
「ええと、それは……魔王にそう言われたけど」
僕は戸惑う。
「僕自身も強くなりたい気持ちはあるよ。だけど、そのためだけにたくさんの女性と……その、そういう行為をするっていうのは、さすがに抵抗があるっていうか」
そもそも、非モテの僕がそんなたくさんの女性とエッチなことをするのはハードルが高い。
とはいえ、この間のマルグリット先生のように紋章がオートで【魅了】や【発情】を発動した場合はその限りじゃない。
あれが発動すると女の方から僕に寄ってくる可能性がある。
「このままだと、あーくんは際限なく女を毒牙にかけそうね。なんたって『色欲』の魔王の力を授けられたんだから」
プリセラが僕をにらんだ。
「えっ!? そんなことしないよ!?」
……たぶん。
「とりあえず――力を使いこなさないと、またマルグリット先生との事案みたいになるんじゃない」
「事案っていうな」
思わずツッコむ僕。
「とにかく、スキルを使うのに慣れればいいんじゃないかな?」
と、プリセラが提案する。
「マルグリット先生が【魅了】されて【発情】したのって、言ってみればスキルの完全制御できてないから起きた現象でしょ」
「確かに……」
うなずく僕。
「慣れる……か。要はスキルを使う練習を重ねればいいんだね」
「そういうこと」
「けど、練習相手がいないよ?」
僕には特定の恋人なんていないし。
「いるじゃない」
プリセラが身を乗り出す。
「えっ、どこに?」
「君の目の前」
プリセラが自分を指さした。
「……って、ええっ!? プリセラが!?」
冗談を言っているような顔じゃない。
明らかに本気の顔だ――。
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