8 幼なじみヒロイン・プリセラ登場

「1番の人が、アーロンくんのスキル効果を解説する!」

「それ、僕を狙い撃ちしてない……?」


 ジト目になる僕。


 ちなみに僕は1番じゃない。


「えっ、アーロンくんのスキルって、あれよね? 半径5メートル以内にいある女全員をパワーアップさせる!」


 たぶん適当に言ったんだろうけど、微妙に正解している部分もある――。


「残念! 正解はアーロンくんがキスをした女の子はパワーアップする、でした!」

「いや、そういうスキルじゃないよ!?」


 思わずツッコむ僕。


 まあ、正確にはキスじゃなくて、もっとエッチな行為だしね……。

 と、


「じゃあ、次! ええと、2番と5番がキスをする!」


 うわ、定番(?)のやつだ!


 ちなみに――5番は僕だった。


「ふふ……私が2番なの。王様の命令だから仕方ないよね?」


 と、僕の隣に座っている女子生徒が顔を近づけてくる。


「ええ……」


 僕は引き気味だ。


「んー」


 と、不意打ち気味に唇を奪われてしまった。


 ……って、ほっぺにチューとかじゃないの!?


 こういうイベントに慣れてない僕は驚いてしまった。


 付き合ってもいない相手と、こんな軽いノリでキスしちゃうんだ……。


 それとも彼女たちがたまたまそういうノリなだけなのか?


 ……まあ、僕も今までにキスを経験した相手は女魔王のエルメリアにマルグリット先生――どっちも交際なんてしてない相手だけど。




「――ちょっと、あーくんに何してるのよ、君たち」




 怒りのにじんだ声が、突然響いた。


「えっ……!?」


 そこに立っているのは、綺麗な赤い髪をツインテールにした勝ち気そうな美少女だった。


 彼女のことを――僕は知っている。


 プリセラ・ウィンゾード。


 学園最強クラスの剣士であり、ゲーム本編のヒロインの一人。


 気が強いけれど、主人公に対してはすぐにデレて、あまあまの態度を取るんだよね。


 ファンの間ではチョロインと呼ばれていた。


 そんな彼女がどうしてここに?


 しかも、今僕のことを『あーくん』って呼んでなかった……!?


「あーくんのファーストキスを王様ゲームなんかで奪うなんて! 絶対に許さないからっっっ!」


 うわ、めちゃくちゃ怒ってる!?


「ひ、ひいいいいいっ!」

「す、すみません、プリセラ先輩っ……!」


 場の女子生徒たちは全員が震えあがっていた。


 なんだかよく分からないけど、ここは僕がプリセラをなだめなければ――。


「あ、あの、別に無理やりされたわけじゃないから、その、落ち着いて……ください」


 僕はプリセラに言った。


 彼女は僕より一学年上の三年生のはずだから、ここは敬語だ。


「えっ、なんで敬語? 急にどうしたの、あーくん?」


 プリセラがきょとんと首を傾げた。


「だって先輩ですし。というか、さっきから言っている『あーくん』って僕のことですよね?」

「ひどーい! 幼なじみのあたしに、なんでそんな他人行儀なの!?」


 プリセラが叫んだ。


 えっ、幼なじみ?


 メインヒロイン格の彼女とモブの僕が……!?


 ゲーム内にそんな設定はなかったはずだけど――。


 いや、設定にはないだけで、この『現実』においては彼女の幼なじみとして僕という存在がいる――ということか?


 まあ、ゲームの設定でキャラクターの全てが語られているわけじゃないだろう。


 設定には出てこない各キャラクターの背景だってあるはずだ。


 その一つが、プリセラの幼なじみ設定、ということなのかもしれない。


 とはいえ、モブに過ぎない僕がメインキャラと絡むような設定を持っているとは驚きだ。


 僕はあらためて記憶を探ってみた。

 すると――。


「思い……出した!」


 そうだ、確かに僕には幼なじみの女の子がいた。


 記憶の片隅に沈み、意識しなければ思い出せない存在だったけれど。


 きっとそれは前世に目覚める前の僕が、封じこめた記憶だったんじゃないだろうか?


 片や学園最底辺のFランクで、片や学園最強のAランク剣士。


 あまりにも差があり過ぎて……惨めに感じていたんじゃないだろうか。


 だから、意識しないようにしていたんだ。


 あるいは、過去そのものを記憶から抹消しようとしていたのか?


 だって、思い出すと同時に、以前の僕が感じていた惨めさみたいなものが、なんとなく感じ取れたから。


「ごめん、プリセラ。みんなの前だから幼なじみとしての話し方をするのが照れくさくて」


 僕は適当に言いつくろった。


「もう。びっくりするじゃない」


 プリセラは唇を尖らせ、軽く拗ねたような表情をした。


 どこか小悪魔じみた表情も可愛らしい。


 こんな超絶美少女が僕の幼なじみだなんて――。


 モブなのに、まるで主人公みたいな環境だ。


「それはそうと――君たち、随分楽しそうじゃない? あたしも混ぜてほしいなぁ?」


 と、プリセラが他の女子たちを見回す。


「ひ、ひいっ……」


 彼女たちはいっせいに悲鳴を上げた。


 プリセラの視線が異様なまでに鋭かったからだ。


 笑顔のままだけど、プリセラ、めちゃくちゃ怒ってない……?


 なんか『圧』がすごい――。


「そ、その……そろそろ解散でもいいかなー、なんて……あはは」

「で、ですです。プリセラ先輩、どうぞアーロンくんとご一緒してください……」

「私たちは退散しますのでぇ……」


 女子生徒たちは口早に言い放つと、逃げるように去っていった。



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