4 スキル【淫蕩なる寵愛(アスモデウス)】を得る


「ふふ、初めての割に上手だったわよ? 素敵だったわ、アーロンくん」


 エルメリアが僕の側で微笑んでいる。


 僕の方は頭が真っ白だった。


 さっきまで生まれて初めての快楽に没頭し、女魔王の裸身を貪り続けていたのだ。


 とうとう、経験してしまった。


 これが男女の交わりなのか――。


 感慨はあったけど、知ってしまえば、どこか呆気ない感覚もあった。


「これで――あたしの力の一部があなたに移ったはずよ。右手を見て」

「えっ?」


 女魔王の言葉に、僕はハッとなって右手を見る。


 その甲にハート型の紋章が浮かんでいた。


「【魔王級スキル:淫蕩なる寵愛アスモデウス】――女と交われば交わるほど、あなたは強くなる。そして交わった相手も同じく強化される」


 囁くエルメリア。


「強くなりなさい、アーロンくん。強い男に……さらにあたし好みの男になったら、もう一度抱かれに来るから」


 ゆっくりと周囲の景色が薄れていく。


「えっ? えっ?」

「他の魔王の中には、人間界を侵略するって息巻いてるのもいるけど、あたしは正直言って、興味が持てないのよ。そんなことより、いい男に抱かれて気持ちいい思いでもしている方が、万倍もいいわ……ふふ」


 周囲に続き、アルメリアの姿自体も薄れていく。


「もう勇者なんてどうでもいいわ。さっきの彼は傷を治したうえで、記憶も消しておくとするわね……ふふ」


 さらに、姿が薄れていく。


「いいわね、アーロンくん? そのスキルがあれば、あなたはどこまでも強くなれる。そうして、もっといい男になったら、あたしと気持ちいいことをいっぱいしましょう?」

「ま、待って、僕は――」

「また、いつか会えるわ……」


 ささやきながら、女魔王は完全にその場から消え去った。


 同時に、僕は元の場所に戻っていた。


 いつの間にか服を着ている。


 斬られたはずのアイゼリックも、傷一つなく――どうやら眠っているみたいだ。


 もしかして――全部夢だったんだろうか?


 一瞬そんな考えが浮かぶものの、僕の右手にはハートの形をした赤い紋章が残っていた。


 何よりも、幾度となく抱いた女魔王の体の感触や数えきれないほど味わった快感が、腰の芯に甘く残留していた。


 その快感の余韻が、さっきまでのことが夢ではなく現実だと教えてくれていた。




 僕は自室に戻った。


 冒険者学園に通う者は基本的に寮生活だ。


 学園から許可をもらって実家から通う生徒もいるけど、ごく少数である。


 寮は男子寮と女子寮に分かれていて、基本的に双方は行き来できないようになっている……んだけど、実際にはこっそり行き来する生徒が男女とも後を絶えないし、半ば黙認されているようだ。


 まあ、僕には女子寮まで会いに行くような仲のいい女子生徒はいないんだけど――。


「今日一日で色んなことが起こり過ぎて、頭の中がパンクしそうだ……」


 まず自分の前世を思い出したこと。


 次に、このゲームの主人公であるアイゼリックに出会い、いったん殺されたものの、何事もなかったかのように生き返ったこと。


 最後に――魔王エルメリアに出会い、ファーストキスを奪われたり、魔王の紋章を与えられたこと。


 どれもインパクトはあるんだけど、直近で考えなきゃいけないのは、魔王からもらったスキル【アスモデウス】のことだろうか。




 ――女と交われば交わるほど、あなたは強くなる。そして交わった相手も同じく強化される――




 エルメリアの言葉を思い返す。


 女と交われば交わるほど……か。


 といっても、非モテの僕にそんな体験ができるとは思えないんだけど。


 今日だって女魔王の方から迫ってきて、半ば強引に童貞を奪われたようなものだし……。


 いや、まあ僕もあんまり抵抗しなかったっていうか、エルメリアが魅力的すぎて、つい誘いに乗ってしまったというか……。


「強くなれ、って言われたけど、君の望みは叶いそうにないよ、エルメリア――」


 僕は女魔王のことを思いながら、ベッドに横になった。


 激しい性交の疲れからか、僕の意識はあっという間にまどろみ、深い眠りの世界へと沈んでいった。




 そして翌日。


 登校した僕は、教室の片隅に座っていた。


「ねえ、今度のクエスト実習、一緒にパーティ組まない?」

「お、我がパーティにもついに女性メンバーが!」

「ちょっと、変な目で見ないでよね!」

「それはそうと、今度の昇格クエストでやっとCランクに上がれそうだよ、俺」

「いいなぁ、俺も早くCに行きてぇ」


 などと、活発に会話を交わすクラスメイトたちを横目に、僕はそんな会話にはとても入っていけない。


 このクラスで唯一のFランクである僕には――。


 一年生ならともかく、二年生の春先でまだFランクなのは学年全体で僕だけである。


 基本的に冒険者学園では学内カーストが自然と形成されている。


 当然、Aランクが一番偉くて、Fランクは底辺。


 つまり、僕は底辺ということになる。


 中には低ランクでも高いコミュ力で高ランクの生徒とつるんでいる者もいるけど、それは例外だ。


 冒険者っていうのは基本的に実力社会である。


 だから自然と高ランクは高ランク同士で、低ランクは低ランク同士でグループを作ることになる。


 最底辺のFランクである僕は、周囲から見下される対象だった。


 そんな学園生活が楽しいはずもなく、僕はみんなから隠れるように教室の片隅で息をひそめているのだ。


「今日の一限目は実習か……個別訓練だっけ、それとも模擬戦だったかな? ダンジョン探索ではないはずだけど……」


 と記憶を探る。


 ああ、個別訓練だ。


 思い出した僕は支度をすると、鍛錬場に向かった。


 昨日は放課後にここで修行していたけど、今日は授業で使うことになる。


 個別訓練は名前の通り、生徒個々人で課題を設定し、その訓練を行う。


 半ば自習で、指導を受けたいときは鍛錬場に待機している教官のところまで行く……という仕組みだ。


 僕は昨日に引き続き、魔力の精度アップ――魔法弾のコントロール訓練を始めた。


「コントロールかぁ……昨日練習したけど」


 たかが一日練習したくらいで実力が上がるほど甘くはない。


 魔力も低いから、弱い魔法弾しか撃てないし。


 これ、他の生徒から見られるのは恥ずかしいんだよね。


 他はみんな、もっと強い魔法弾を撃てるからさ……。


「……なんて考えていてもしょうがない。とにかく練習だ」


 僕は魔力を集中し、魔法弾を生み出す。


 ボウッ!


「……あ、あれ?」


 現れた魔法弾は、思っていたより二回りほど大きかった。


 以前より、明らかに魔法弾のサイズが大きくなってるよね、これ……?




****

※5話は明日の昼12時に投稿します! 明日以降は1日1話、昼12時更新です!


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