第16話
風と千歌は、京町禅陽日寺の中で少しずつ生活に慣れ始めていた。だが、日々の静かな生活の中で、どうしても疑問が浮かんできた。
「住職、私たち、ここに長くいると、歴史に影響を与えちゃいそうで怖いんです。」千歌が、気をつけながら言った。
「歴史に介入するなんて、まずいよね。」風も同意しながら言った。
二人の言葉に、住職はしばらく黙っていたが、やがてにっこりと微笑んだ。
「歴史に介入してしまうという恐れがあるのはわかるが、だからといって、何もせずに閉じ込められているのは、楽しくないじゃろ?」住職は、穏やかな声で続けた。「京都は、ここから外に出てみれば、実に素晴らしい場所じゃ。見たこともない景色、知らない人々、色とりどりの町並み。それを楽しむこともまた、人生の一部じゃと思うんじゃ。」
風と千歌は、少し驚きながら住職を見た。
「でも…」千歌が心配そうに言う。「でも、歴史を変えてしまったらどうしよう?」
住職は頭をかきながら、優しく言った。「それを心配する気持ちもわかる。でもな、歴史というのは、目の前で起きたことを刻み込んだものでしかないんじゃ。だから、君たちが介入することなく、ただそのまま流れていく景色を見て、感じて、楽しむだけでも、十分に大切なことなんじゃよ。」
住職の言葉に、風と千歌は納得し、少し肩の力が抜けた。
「でも、あまり無理に出歩くと、また何か不安なことが起きるかもしれませんよね。」風が冷静に言うと、住職はまた軽く笑って言った。
「無理に出歩かなくてもいいが、あまりに閉じ込められていると、逆に心が淀んでしまう。たまには外に出て、京都の町を見て回るのも悪くないじゃろう?歴史に影響を与えないように気をつけて、ただ楽しむことが大切じゃ。」
住職は、二人に町を案内するように言った。風と千歌は、少し驚きながらも、住職の柔軟な考えに感謝し、これからの生活に少しだけ希望を感じることができた。
「それなら、ちょっとだけ…」千歌が小さくつぶやいた。
「うん。」風も静かに答え、二人は少しの間だけ町に出て、京都の街並みを見て回ることを決めた。
住職の言うように、歴史に影響を与えないよう気をつけつつも、京都の街の中で感じる新たな世界に心を躍らせる二人だった。
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