第15話
風と千歌は、京町禅陽日寺での生活を始めて数日後、どうしても気になっていたことがあった。それは、どうすれば元の世界に帰れるのかということだった。二人はお寺の中で手伝いをしながら、日常が少しずつ落ち着いてきたものの、心の中ではいつもその疑問が頭をよぎっていた。
ある日の午後、風と千歌はお寺の庭でこっそりと話し合うことにした。周囲の静けさと、京都の街並みが一望できる場所で、二人は向かい合って座った。
「ねえ、どうにかして元の世界に帰れないかな…」千歌が口を開いた。彼女の声には、焦りと不安がにじんでいた。風も同じ気持ちだった、風なりに必死に考えていた。
「わかんないよな、どうやって来たのかも、全然覚えてないし…」風は少し黙り込んでから、続けた。「でも、帰る方法なんて、ないんじゃないかな…」
「そうかもしれないけど…でも、雷の中に吸い込まれてきたんだし?」千歌は少し元気を出して、何か手がかりがあるかもしれないと思ったのか、提案した。「もしかして、雷にもう一回打たれたら、元の世界に戻れるんじゃない?」
その言葉を聞いた風は、少し驚いた顔をして、すぐに冷静に答えた。「いや、それは…危ないだろ。雷に打たれたら、死んじゃうかもしれないよ。」風の言葉は冷静でありながら、千歌の提案に対する懸念を隠すことなく伝えていた。
千歌はその答えに少し気まずそうにして、少し沈黙が流れた。でも、すぐにまた顔を上げて、笑いながら言いった。「あ、そうだよね。死んじゃったら元も子もないもんね。」と、少し照れくさそうに笑ってみせた。
風はやっぱり千歌の性格に少し驚きつつも、ホッとした気持ちになった。「でもさ、元に戻れる方法があるなら、試してみる価値はあるよな」と、風も心の中で少しの希望を抱いていた。けれども、現実は冷静に判断しなければならないことがわかっているので、あまり楽観的には考えられなかったのだった。
「うん、でも…今は焦っても仕方ないよな」と千歌が言うと、風はうなずいた。「そうだな。まずはお寺でしばらく過ごして、状況を冷静に見ていこう。」
二人はしばらく黙って庭を見つめた。これからどうなるのか、元の世界に戻れるのか、ただひたすら考える日々が続いた。しかし、雷に再度打たれるというリスクのある方法ではなく、もう少し別の手段を見つける必要がありそうだと、二人は心の中で決めたのだった。
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