第3話
放課後、部活の見学会が始まる時間になり、風は剣道部の見学に訪れた。部室の扉を開けると、すでに何人かの部員が道場の中で素振りをしているのが見えた。少し躊躇しながらも、風は足を踏み入れる。その瞬間、部員たちの視線が集まった。
「新しいやつか?」
一人の男子部員が、無愛想な顔をして風に声をかけた。城松は、剣道部のエースで、どこか自信に満ちた雰囲気を漂わせている。
風は一瞬も躊躇せずに、無表情で彼を見返した。
「見学に来たんですけど」
「ふん、見学だけなら別にいいけど、入るつもりがあるなら、ちょっと試しにやってみろ」
城松が冷たく言い放つと、周りの部員たちが小さく笑った。剣道部に入るためには、体力や技術を証明する必要がある。見学しているだけでは、決して仲間にはなれないのだ。それにしても、城松の言い方は、まるで風が負けるのが当たり前のように感じさせる。
風はゆっくりと自分の足元を見てから、ふと顔を上げた。顔に浮かぶのは、挑戦的な微笑み。まるで、どんな困難でも受け入れる準備ができているかのように。
「やる、やってみます」
その一言が、周りの部員たちを一気に静まり返らせた。城松もその反応に少し驚いた様子を見せたが、すぐに自分を取り戻し、口元を歪めて言った。
「いいだろう。お前、あんまり甘く見ないほうがいいぜ?」
城松が試合を始める合図をすると、風は黙って竹刀を握り締め、構えた。試合の間に周囲からは、期待の眼差しが向けられる。城松が先に動く。素早く間合いを詰め、風の肩を狙って竹刀を振り下ろす。しかし、風の動きはそれを簡単に避ける。素早く、流れるように。まるで戦いの前から相手の動きが見えているかのような余裕を見せている。
城松が竹刀を振るうたび、風はそれを軽々とかわし、動きがどんどん鋭くなる。しばらくして、風はすっと竹刀を持ち上げ、佐藤の面をひと振りで打った。
城松は驚いた表情でその場に立ち尽くし、竹刀を握る手がわずかに震えた。周りの部員たちも、予想外の展開に目を見張っている。
風はそのまま竹刀を下ろし、静かに息を吐きながら言った。
「これで、剣道部に入る資格はあるんでしょうか?」
その言葉に、部員たちがどよめいた。城松は顔を赤らめて、悔しさを隠しきれずにその場を離れた。風はそのまま立ち尽くし、周囲の反応を静かに受け入れた。
その後、風は数人の部員たちから挨拶を受け、少しずつその存在が部内で知られるようになった。そして、彼女はその日を境に、ただの転校生から注目の的へと変わったのだった。
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