2 ダンジョンの出現と現代忍者
東京の池袋。
人々が忙しなく行き交い日常が流れる中、突如として街の中心に異界への入り口が現れることになる。
午後、穏やかな空気の中で突然の轟音が響き渡った。
まるで大地が割れ、何かが這い出てくるかのような不気味な音。
人々は驚き、立ち止まり、音の方向を見つめた。
「なんだ、あれは?」
周囲の人々が集まる中、巨大な黒い渦が街の中心に現れた。地面が揺れ空気が変わる。渦の中心からは異様な光が放たれ、まるで別の世界への扉が開かれたかのようだった。
「おい、あれは……ダンジョン?」
誰かが叫ぶと、その言葉は周囲に広がり、興奮と恐怖が交錯する。渦の中心から影のような生物が次々と這い出してくる。恐ろしい魔物だった。
顔に鋭い牙が並び、体は不気味な色合いで覆われていた。
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自衛隊が最初に池袋ダンジョンに突入した。
部隊は強力な武器を装備し、広範囲に配置された監視カメラを駆使してダンジョン内部の情報を収集しようとしていた。
しかし、彼らがダンジョンに到達した瞬間、異界の住人たちが彼らを迎え撃つように現れた。
「敵接近!全力で防御態勢を取れ!」
隊長の叫びが響き渡り、兵士たちはすぐさま陣形を整えた。
だが、近代兵器が魔物に向かって発射されると、弾丸は敵の体に当たっても何の効果もなかった。弾丸が鋼鉄のように硬い皮膚に弾かれ、魔物たちはまるでその攻撃を楽しんでいるかのように悠然と迫ってきた。
兵士たちは絶望的な状況に直面した。魔物の攻撃は熾烈で、数名の兵士が瞬時に倒れ込む。逃げる者もいれば、抵抗しようとする者もいたが、どれも効果は薄く、混乱が広がっていく。
隊長の叫び声が消え、無線機からは悲鳴と怒号が交錯する
「撤退!全員、撤退しろ!」
その言葉はすでに遅かった。兵士たちは次々と魔物に襲われ、目の前で仲間が倒れていくのを見ているしかなかった。彼らの持つ武器は、ただの飾りに過ぎなかったのだ。
この惨劇の後、日本政府は国民に対して緊急事態を宣言した。
魔物の脅威は現実のものとなり、各国の軍もまた同様に挑戦を続けたが、彼らもまた同じ運命を辿ることとなった。最新鋭の兵器を持って突入しては次々と撤退を余儀なくされ、次第に絶望感が広がっていった。
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政府は、先日のダンジョンでの惨劇を受け、異次元の魔物に対抗するための新たな戦略を練り直していた。銃火器が一切通用しなかったことが衝撃的な事実として残る中、異例の判断で刃物による攻撃を試みることが決定されたのだった。
再びダンジョンに向かう兵士たちは、これまで慣れ親しんだ銃を置き、代わりに日本刀や斧、さらには槍といった伝統的な刃物を手にした。
準備の場に立つ兵士たちの表情には、不安と疑念がはっきりと浮かんでいた。「本当に、こんなもので戦えるのか?」という声が漏れ、緊張感が場を包み込んでいた。
その時、先の戦闘に参加していた一人の隊員が低く語り出した。
「実は、あの時ナイフで魔物に切りつけてみたんだ。それが…少しだけど、効いた」
その言葉に、周囲の兵士たちは一瞬息を呑んだ。ナイフという短く頼りない武器であっても、魔物に僅かなダメージを与えられたという事実は、彼らにとってわずかな希望の光となり始めていた。その隊員が続けて話す。
「傷は浅かった。でも、あの異形の皮膚に刃物が通ったんだ。銃弾が跳ね返されたあの肌に切っ先が届いたんだよ、この事は上にちゃんと報告した、だからこんな現状になっているんだと思う、人力で刃物での攻撃をした場合は効果があるんじゃ…って話らしい」
証言には確かな手応えがあった。
皆、視線を鋭くし、日本刀や斧を改めて見つめた。装備を整えた彼らは、かすかな希望を抱きつつ、これまでとは異なる覚悟を決め、静かにダンジョンの入り口へと向かっていった。
ダンジョンの闇に包まれた廊下を進むと、再び魔物たちが姿を現した。
先頭に立つ兵士が恐る恐る刃を構え、魔物に向かって切りかかった。
その鋭い刃が魔物の皮膚に届くと、兵士たちの間に歓声が上がり、これまでの無力感が熱気に変わっていく。
隊長の声が響き、兵士たちは一斉に刀を構え直した。
今まで防げなかった脅威に、初めて手応えを感じた瞬間だった。
しかし、鋭い刃が通じるとわかっても、戦況が大きく改善されることはなかった。
確かに一撃は加えられるものの、魔物の攻撃はあまりにも苛烈であり、兵士たちが倒れる数は減らなかった。
新たな希望がかすかに灯る一方で、依然として、戦いに挑む者たちは次々と命を散らしていった。
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そんな中、古くから日本に伝わる「忍者」の存在が再び注目された。
長い時を忍び、闇に紛れてきた彼ら——忍者たち。
その姿は風と共に消え、影に溶け込み、存在すら幻のごとく語られてきた。
しかし、世界が今まさに存亡の危機に瀕している。
深紅の空が裂け、魔物の咆哮が響き渡るたび、古の誓いが彼らを静かに呼び覚ます。
忍者たちは、己の運命に従い、静かに決意を固めていた。
忍び刀は鋼の光を帯び、鎖鎌が静かに闇を切り裂く。
手裏剣が空を舞い、隠し針が鋭く光る。
苦無が確かな手ごたえを秘め、鎖分銅は鋭利な影となって忍び寄る。
そして煙玉——それはまるで一陣の嵐のごとく、敵の視界を奪い、彼らの姿を再び闇へと消すために練り上げられた。
伝統の武器に現代の技術と知恵を織り込み、新たな力を得た忍者たち。
これまで彼らが磨き続けた技が、今、魔物への覚悟の刃となる。
息を潜め、足音さえ無き風となりながら、一人また一人と姿を現し、無言の誓いを胸に戦場へと踏み出していく。
忍者たちが戦いに赴く決意を固めたとき、彼らに一つの新たな指令が与えられた。
それは、これまで影に隠れ、人々の知らないところで役目を果たしてきた彼らが、初めて「表舞台」に立たねばならないというものだった。
今回の戦いは、ただ魔物を討つだけでは終わらない。
忍者たちの戦いぶりを世に示し、戦況を人々に知らしめ、恐怖と混乱の中でわずかな希望を提供しなければならないのだ。
政府の指示により、彼らの任務は浮遊する小型ロボットカメラによって、リアルタイムで配信されることが決まった。
忍者たちはこの配信の意味を噛み締め、カメラが持つ影響力に対して複雑な思いを抱いた。カメラが忍び寄るように彼らの周囲を浮遊し、そのレンズが静かにこちらを見つめるたび、忍者たちの気持ちは微妙に揺れ動く。
「今度はただの任務ではない。自分たちの姿を、人々が見ているのだ」と、彼らは心の中でそう覚悟を決める必要があった。
映像はリアルタイムで配信される。
彼らの一挙一動、表情、動き、戦いのすべてがカメラを通して伝えられ、瞬く間に視聴者の元へと届く。
近代兵器が通用しない魔物に、忍者たちが刃と忍術で立ち向かう姿
その劇的な瞬間が、テレビやスマートフォンを通して、今この時にも無数の人々の目に映し出されるのだ。
「俺たちの戦いが…世間に知られることになるとはな」陽が低くつぶやくと、涼音は無言で頷き、カメラのレンズに一瞬だけ視線を投げかけた。
「私たちの役割が、影ではなく表に出るなんて…変な感じだわ」その声には微かな戸惑いが含まれていたが、彼女の瞳は決意の光を宿していた。
こうして、忍者たちの闘いは全国に公開されることとなり、彼らは影に隠れる者ではなく、社会の前線で希望を灯す存在へと変わっていった
涼音は、仲間たちと共にその一員として戦う覚悟を抱いていた。
彼女の中には、前世の極悪姫としての罪を清算し、新しい人生を掴み取るための強い意志が燃えていた。
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