第28話

 翌週末の休日、王宮傍の闘技場が解放された。


 成竜の儀の最終戦が、御前試合として開かれることになったのだ。


 ヤンクとエルミナ、そしてミルスが『今ならば対等以上の戦いが出来る』と納得したからだ。


 武台の上では軽鎧を着こんだヤンクと、巫女の正装を着込んだアレミアが並んでいる。


 対峙するのは、同様に軽鎧を着こんだミルスと、巫女装束に初めて身を包んだリオだ。


 真っ白なローブを着込んだリオは、動きやすさを確認するように手足を動かしていた。


 ヤンクがミルスに告げる。


「ようやく私の念願が叶う。

 お前と本気の勝負をするこの時を、ずっと待ち侘びていたのだ。

 ――がっかりさせるなよ?」


 ミルスがヤンクに応える。


「今の俺なら、兄上にそう簡単に負けることはないさ。

 勝てるかどうかは、つがい次第だ。

 そして俺はリオを信じている。

 ――つまり、俺たちが勝つ!」


 アレミアがリオに微笑んで告げる。


「本質的には、私とリオさんの技量勝負ですね。

 義姉あねとして、巫女の先輩として、簡単に負ける訳にはいかないわ。

 三年間の重み、味わわせてあげる」


 リオも不敵に笑って応える。


「共に過ごした期間が短くても、私とミルスは死闘を演じられる仲よ?

 私を舐めるとどうなるか、アレミアさんにも思い知らせないといけないのかしら?」



 国王が闘技場の王族観覧席から声高こわだかに告げる。


「ではこれより、成竜の儀、最終戦を始める!

 互いに悔いの無いよう、全力を尽くすが良い!」


 四人が身構え、アレミアとリオの瞳が金色に染まる。


 ミルスがヤンクを見据えたまま、リオに告げる。


「お前はお前の好きに動け。

 補佐は俺がしてやる」


 リオはアレミアを見据えたまま、ミルスに応える。


「ミルスこそ、好きに動いていいのよ?

 竜将を補佐するのがつがいの務め。

 私は私なりの補佐をするだけよ」


 二人が同時に、楽し気に微笑んだ。


「それじゃあお互い――」


「好きに動くとしましょうか!」





 その闘いは後に、ウェラウルム王国の歴史に残る名勝負として語られることになった。


 勝者は次代の王として確定し、国民全てがそれを祝福した。


 後に王が譲位した後、その次代の王は名君としても語られることになる。


 その名君は正室のみを作り、生涯側室を作ることはなかったという。


 どちらに軍配が上がったのか、それを語る野暮は、此処では控える事としよう。

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番の巫女・改訂版~神様?!突然伴侶になれと言われても困るんですが?!~ みつまめ つぼみ @mitsumame_tsubomi

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