5枚目の花びら
「わぁ、音楽室だ!すご~い、音楽家の写真って夜に見ると昼とは迫力がちがうね!」と言うと、隣の茜さんは「そんなに目、輝かせる?こーゆーのって普通怖いもんじゃないの?」と控えめに笑った。
「あっ!理科室のガイコツ、ちゃんといる!夜中に校内走り回ってるって噂は嘘だったのか。」と言うと、「学校の怪談的なやつって9割は嘘だよ。」と返してくる彼女。「そっか、茜さんって毎晩ここを彷徨ってるから詳しいのか。」と呟くと、「うん、そう!どうせなら、噂全部確認して、次登校した時に会話のネタにする?盛り上がりそうじゃん!」と明るく提案する彼女。かなり小さい声だったのに、聞き取れたんだな。というか・・・。
「それは、逆にクラスメイトに怖がられそうだからやめておくよ。」そう返すと、そっかとだけ言われた。少ししてから、「そうだよね。怖がられちゃいけないよね。」と独り言のように言った。「茜さんにもいたんですか?怖かった存在。」彼女と廊下を並んで歩きながらそう尋ねる。隣を歩いている(というか浮遊している?)茜さんは出会った時よりも薄くなっているように見える。なんとなく彼女に触れたくなって、「あの、手って繋いでもらえますか?僕、茜さんと手を繋ぎたくて。」とお願いしてみる。「は!?手ぇ?」急なお願いでびっくりさせてしまったらしく、僕の方を見て大声を出した彼女。
「あのさ、歩。私って幽霊なの知ってるよね?アニメとか漫画とかの幽霊ってさ、だいたい
「ねぇ、僕も幽霊になったら茜さんに触れる?僕もそっちに行けば。」彼女を元気づけるためにとっさにそう言うと、「馬鹿!なんで自ら死を選ぶんだよ!お前は自分に負けたくないんじゃなかったのかよ!」と捲し立ててから、「だから生きてる人間に関わるのは嫌なんだよ。ましてや”不登校の自分に負けそうな少年”なんてもってのほか!」と言って、その場にしゃがみこんでしまった茜さん。床に落ちる滴や小刻みに震える肩から彼女が泣いていることが分かる。今の彼女は僕よりずっと小さく見えた。
彼女に合わせてその場に屈んで、彼女の小さな背中に手を伸ばした。彼女の背中を
「痛った!」痛むおでこを押さえながら立ち上がる。僕がおでこを打った音で少し冷静になったらしい茜さん。少し低めのトーンで「ごめん。取り乱した。死人に口なしだもんな。忘れて。」とだけ言って黙った彼女。かなり長い時間僕たちの間に沈黙が流れる。
「あのさ、ちょっと外の空気でも吸わない?」先に沈黙を破ったのは茜さんで、廊下の先の職員室を指差してから「実は今日の鍵閉め当番が新米先生だったらしくてさ。閉め忘れてたまま帰ったんだよね。職員室の扉。」と悪い顔で笑った。「え?どういうこと?」言葉の意図が分からず、そう尋ねる。「だからぁ!屋上、出ない?ってこと!ほら、普段はなかなか出れないじゃん!」と笑ってから「置いていくぞ~!」と今までで一番の速さで浮遊して職員室に向かう茜さん。慌てて彼女を追いかけて職員室へと走った。
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