4枚目の花びら

 「あの、僕、弱い自分に勝つためにここに来たんです!」思いきって茜さんに打ち明ける。「弱い自分?」不思議そうにそう繰り返した彼女。「はい。実は僕、だいたい1年くらい不登校で。」初対面のお姉さんに何を相談しているのだろうと思いながらも、茜さんが話しやすくてつい喋ってしまった。「あっ、すみません。こんなの茜さんにする話じゃないですよね。」慌ててなかったことにしようとすると、「いいんじゃない?生きてる人にはしにくい話とかもあるじゃん?」と返された。「まぁ、私に言われたことはそんなに気に留めないでよ。ほら、死人に口なしって言うじゃん?」と明るく笑った。その笑顔の裏に何か隠しているのではないかと思ったが、気のせいだろうか。


 しばらくの沈黙の後、「で、歩が不登校になった原因は?」と聞いてきた茜さん。先ほどの発言からこちらに干渉してこないだろうと安心していたので、驚いて目を見開く。「どうせ誰にも話せてないんでしょ?ほら、茜お姉さんに話してごらん!」そう言って笑った彼女は、暗闇の中で輝く月のように見えた。


 「その、実は・・・。」今まで誰にも話したことがなかった不登校になった原因のエピソードを彼女に全て打ち明けた。

 「はぁぁ、なるほどね。」眉間を押さえてため息をついた茜さん。「でも、歩はまだ死んでないじゃん。生きてるならやり直しはいくらでもできるよ!」そう言って笑った彼女は、続けて「ほら、ここにいるお姉さんはもう死んでるからさ。」と悲しそうに呟いた。あっそうか、茜さんはもう死んでいるからやり直せないのか。「なんかごめん。」突然、彼女が同い年くらいに思えてタメ口で謝る。「いいよ、いいよ、気にしないで。普段、幽霊と会話することなんてないじゃん?」と返された。


 「そういえば、茜さんはどうして幽霊に?」沈黙が気まずくて、ずっと気になっていたことを質問してみる。「え?」予想外の質問だったのか驚く彼女。「あー!!」突然大声を出して、くしゃくしゃと髪を掻きむしる。それから、覚悟を決めたように「自殺だよ!」と言って、机を叩いて立ち上がった。「え?」無意識にそう呟く。

 「カッコ悪いだろ?歩とはちがって、負けたんだよ!弱い自分にね!」そう勢いよくそう捲し立てる彼女。「あ、その、茜さんが自殺した原因とかって・・・。」そう聞くと「歩には教えたくない。」ときっぱりと返された。「どうして?」そう尋ねると、「うーん。まぁ、歩の教育上よくないから?」となぜか疑問系でこたえる彼女。


 「そうだ!茜さん、学校探検しない?久しぶりに来たから校内を散歩したくて。」重たい空気を変えるために彼女にそう提案してみる。彼女は一瞬目を見開いて驚いた後、「いいよ!私、毎晩ここを彷徨ってるから結構詳しいんだ!」と笑った。「ここを彷徨ってる?なんで?」と聞くと、「うーん。成仏できないから?」とまた疑問系で答える彼女。成仏の方法が知りたかったので聞こうとした。けれど、彼女がそれを阻止するように雑談をし始めてしまったので諦めた。

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