第9話

若菜は獣医学部に行きたいと思うようになった。今は二年生の三学期だ。父と母に相談した。学費は問題ないと言ってくれた。成績はどうかというと、少し数学が弱いので、それが課題だ。生物や化学は割とできる方だった。比奈子とはラインやFacebookで繋がっているが、プライベートな話なので、電話をかけてみた。

「もしもし、若菜です。比奈子さん?」

「ああ、若菜ちゃん?元気?」

「はい、元気です。友達にハイジってあだ名つけられたって、話したっけ?」

「あはは、ううんん、初耳。おもしろ〜い。楽しい?学校。」

「はい、とっても。今の友達の方が私に合ってるの。だから快適。」

「そうなんだ。良かったねえ。」

「うん。それでね、私、獣医学部目指そうかと思ってるんだ。」

「へえ。本当?」

「うん。まだ内緒にしといてね。比奈子さんと敬おじさんだけ。」

「分かった分かった。」

「うん。頑張ってみる。佐藤先生にも憧れちゃった。」

「へえ。ああいうお仕事、大変そうだけど、動物好きならやりがいあるよね。」

「うん。敬おじさんは元気ですか?」

「うん、元気だよ。今、ちょうど、工場へ納品中。獣医の件、伝えておく。喜ぶわ。」

「ありがとう。それじゃ、お元気で。」

「はーい。」

比奈子は電話を切った。

 その時、佐藤先生の大きなクシャミが玄関から比奈子に聞こえた。窓から佐藤先生だとわかると、比奈子は、

「噂をすれば、影さした。喋ってもいいよね?うん、うん。」

玄関のブザーが鳴る。

「はーい、先生、今いい人と電話で話してたの。」

「誰?」

「若菜ちゃん。」

「へえ。久しぶりに聞くね。」

「うん。獣医学部受けるって。」

「ええ?本当?そうか!頑張れ。」

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