第8話

新学期が始まった。一年遅れてもう一回二年生になることは、若菜にはそれほど苦痛ではなかった。しかし、父と母は、かわいそうだと思っていた。母は、

「若菜、友達できた?」

と、何気なく聞いた。若菜は、

「うん、いるよ。ちょっと大人しめの子。でもその代わり、前の四人で仲良かった子達より、ずっと性格いい子達。優しいし、女子力も高いよ。」

「そう、良かった。」

「牛の世話してたんだ、って話したの、私。一年遅れてること、みんな知らなかった。だから、山梨の牧場で牛と暮らしてた、って言ったら、ハイジってあだ名つけられそうになったよ。」

「どうしてハイジなの?ハイジはヤギでしょう?」

「あはは、そうか、そうだね!」

若菜は屈託なく笑った。久しぶりにみる若菜の笑い顔に、母はほっとした。

 母は毎日お弁当を作ってくれた。若菜は、

「お弁当にまた前みたいにチヂミ入れて欲しいな。あれ、好きなんだもん。」

「分かった、分かった。」

母は嬉しそうに言うと、ハルモニに電話して、最近の若菜の様子を伝えた。新しくできた友達に、ハイジとあだ名をつけられたこと、そして母と若菜で久しぶりに大きな声で笑い合ったこと、そして、弁当にチヂミを入れてくれとリクエストして来たこと。ハルモニは、

「ああ、私はもう、死んでもいいくらい幸せだよ。若菜は本当にいい子だ。山梨のご夫婦にも感謝しなきゃ。本当にいい子だ。」

祖父も電話の会話の内容をハルモニから聞いて、

「おばあさん、若菜に今度遊びに来るよう言ってくれ。小遣いでもやりたいよ。」

と言って、男泣きしていた。

「そうか、ハイジか。ハハハ。」

と、泣き笑いになった。

ハルモニは、

「若菜は蛹だったのよ、富士山の麓で蛹だったのよ。まだ蝶々になり切れてないけど、素敵な蝶々になるよ。」

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