第3話

「これが連絡先です。僕からも話しておく。一度、娘さんを連れて夫婦で来てもらいましょうか。ね?」

佐藤先生は、そう言って、一枚のメモを敬に渡した。敬は頷いた。

「いじめられた理由ってなんなんだろう?」

比奈子は聞いた。佐藤先生は、

「うん、手紙に書いてあったんだけど、お母さんの母、つまり本人の母方のお祖母さんが

韓国人らしい。そのことを噂にされて、気にしすぎたらしい。」

比奈子は、

「まあ、かわいそうに。その子には全く責任のないことで。そんなことで今時の高校生はいじめるのかしらね。」

と、悲しそうに呟き、ほうじ茶を啜った。

「リストカットもしたらしいんだ。だから、嫌だったら嫌と言ってくださいね。断るのは全然大丈夫だからね。」

佐藤先生は、そう言うと席を立った。

「じゃ、ご馳走様でした。連絡待ってます。」

 比奈子はその日の仕事が終わると、敬に、

「貴方はあんまり気が進まないかも知れないけど、私は預かりたいわ。この景色、環境がどんなに安らぎになることか。私もお嫁に来る前に、ここを見て一眼で気に入って、会社辞めちゃって、貴方と一緒になったんですから。」

と、マグカップにホットミルクを注ぎながら言った。敬は黙って聴いていた。

「だって、ここでの生活は単調だし、土曜も日曜もないし、朝は早いし、臭いし、汚いでしょう?でもね、いじめにあったような子は、こういう単調な生活が必要なのかも知れないわよ。牛って正直だから、心を見抜くでしょう?懐かれたら、もう、可愛くてやめられないものね。」

比奈子は一人で話していた。

「おばあさまが韓国の方だっていうだけで、なんでいじめられなきゃいけないの。かわいそうですよ。そんな環境から、この富士山の見える雄大な農場に来たら、『ああ、生きててよかった。生きるって素晴らしい。』って思ってもらえるんじゃないかしら?」

敬は、

「そうだね、牛はそんなことお構いなしで、心を見るからね。牛に認められたら、一人前だよ。」

と、ホットミルクを啜った。

「佐藤先生に電話するか。来月の初めくらいに、顔合わせってことで。」

比奈子の顔が途端に輝いた。

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