4.腹直筋の痛みは、罪の重み

 本来の乙女ゲームの主人公、アンリちゃん。

 アンリちゃんのお兄さんであるオルトさん。

 そして、悪役令嬢に転生した限界社畜筋肉フェチの私こと、ルナ。


 この3人で、ブラック企業のパワハラ上司が、私の婚約者として転生したシフノス王子の王位剥奪チームを結成した。


なぜ?


 それはきっと、上司がアンリちゃんを狙っているからだ!

 アンリちゃんのため、協力してくれる2人のため、そして私の尊厳のために!

 上司の王位を剥奪して、ぶん殴るッ!!





 オルトさんは男性なのを利用して、上司に近づき交友関係を洗う。

 アンリちゃんは地母神以外の神々から加護をもらいに

 私は、婚約者の立場を利用して王城に入り金銭的な動きを調査する。


「ルナお嬢様、ご機嫌よう」


 上司の家庭教師に挨拶され、私もお辞儀をする。


「ごきげんよう。調子はいかがかしら?」


「私はお陰様で元気ですわ。ただ、ルナお嬢様は大丈夫かしら?

近辺で魔の物に襲われ、女性が攫われているようなの」


「まぁ、怖いわ」


「本当にお気をつけて!」


「出会ったら退治しますわ!他に何か困ったことはありますか?」


「困ったものです……2年前から全て放り投げて遊び呆けています。

学業、魔術、政治、学ぶべきことは沢山あるといいますのに!」


 ずっと放棄されているのだろう、眉間に皺がよっている。


「貴方から見たシフノス王子のことを聞きたいわ。私の将来旦那様になる方だもの……そろそろお茶の時間だし、ご一緒にいかが?」


 家庭教師には以前、モンスターに襲われたのを助けたことがある。

 つまり、借りだ。あんまり好きじゃないが、このぐらいのお願いはしても良いだろう。


「命の恩人であり、未来のお妃様からの頼みでは断れませんね。ええ、どうせ彼は夜中まで戻ってきません!たっぷりお話しましょう!」


「嬉しいわ!」


 家庭教師の愚痴は3時間にも及んだ。よっぽど溜め込んでいたのだろう。

 うんうんと情報収集に勤しむ。

 清廉潔白な王子様が、酒と女に溺れてるなんて……そりゃあ、全てが爆発するか。

 薦められるままにお茶を飲み、話が終わる頃には、お腹をタプタプにしながら帰宅した。

 翌日も同様に他の者たちに話を伺い、連日私はお腹をタプタプにするハメとなった……。

 しかし、城で連日通っても上司と遭遇しなかったのは運が良かった。

 聞き込みをしているなんて知れたら、どうなるか分かったものじゃない。


 1ヶ月後、私たちは地母神の住む森へと落ち合い、成果を報告した。

 ここでは誰にも話を聞かれる心配がないからだ。


「まずは、私から報告いたします。」


 少し見ぬ間にアンリちゃんの魔力は以前とは比べ物にならなかった。


「地母神様のおかげで皆様快く協力してくださいました。おかげで加護がつきました!」


 たくましい!力では勝つだろうが、魔術や加護込みではどうにもならないだろう。

 さすがは主人公!


「それから、神様からお聞きしたところ王家からの祈りが途絶えているそうです。

王家の祈りがあるからこそ、神様の力で国を守れるのに……このままだと大いに危険です。」


「次は俺だ。アイツに近づいてみたが……とんでもねぇ間抜けだな。

自分を全て正しいと思い込み、気に食わない奴は権力でねじ伏せている。

男は無実の罪で収容所送り、女は……似たようなものだ」


想像がつき吐き気がする。この場でそれを口にしないのはオルトさんの気遣いだろう。


「最後は私ですね。家庭教師や乳母を含めてかなりストレスが溜まっています。

横暴な理由で解雇された者も多数おり、毎晩遊び歩き、お金を国庫から支払っているそうです。」


「国民からのお金を……なんてひどい」


「王家の義務である祈りを放棄、冤罪、財政の私物化、証拠は揃ったな……もう一押しする時間がある」


「事件?」


「ルナ様が魔の物を倒したのに、母は、地母神は気づかなかった。おかしな話だろ?」


「確かに……」


「それから、近辺で起きてる魔の物が女性を攫う事件。

攫って何をするんだ?魔の物は人間を食い物としか見ていない、なぜ攫う?」


 確かに妙な事件だ。


「え、ちょっと待って……」


「そうだ。明日、この屋敷で落ち合おう」





 暗闇から物音が聞こえる。

 血の匂い、獣の呻き声。

 本当だった。

 本当に……。


「いけ!」


 獣は女性達の帰りを分かっていた様に、一気に襲いかかる。

 突然の出来事にパニックになり、皆一様に逃げていくが獣には敵わない。

 鋭く濁った牙が彼女達を捉えようとするが


「ぎゃん!!」


思いっきり殴り飛ばした。

のたうち回ったところを、光に包まれて、大人しく眠りについた。


「っくそ、なんだよ!一体!くそ、くそ、逃げるぞ!」


「今まで、逃したことがなかったくせに自分だけ逃げられると思うの?」


「な……!」


 思いっきり鳩尾を殴りつける。

 殴られた相手は鈍い呻き声を上げると、地面に倒れ込み、腹を抑えて震えている。

 

 ……上司、いや、クソ上司!


「シフノス王子、貴方に前世の罪もまとめて償ってもらいます!」


 ようやく、この時が来た!

 ようやく殴れた感激と、これからのことを考えて震える。


 私の復讐をここで終わらせる!

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