いつか君を殺す物語
プロローグ
一度目の俺の人生は何もないつまらないものだった。
ただ人に言われるがまま物事を行い、人に選ばれた選択肢を進み、将来の夢や未来を想像することができないようなそんな人間だった。
しかし、そんななんの面白味もない人生は事故によって唐突に終わった。
そして、俺は目が覚めたら別の世界に転生していたのだ。
それも何故か陰陽師や霊力、そしてその力で退治する妖などが存在するファンタジーな現代日本だ。生まれ変わって数日経った後に身の回りの人達が見たこともない札や急に手から火を出したりしたもんだから俺はこの世界に生まれ変わったことを喜んだ。
俺は昔からゲームやアニメなどが好きだったからそういうファンタジーな夢や妄想を何度も想像したりして憧れていた。
この世界なら俺も輝くことができると思ったのだ。
しかし、俺には陰陽師の才能は全くと言っていいほど無かった。
それも、陰陽師が操る霊力というものが全く理解できなかったのだ。
俺は一度霊力というものが存在しない世界で育ってしまった人間だったのでその価値観が残ってしまい、お前には見えない力が身体の中にあると言われても頭には疑問しか浮かばなかったのだ。
つまり、俺はこの二度目の世界でも何もできない普通の一般人として生きることとなってしまった。
嗚呼、俺はまた何もできず何も輝くことなくこの一生を終えるのか。と悟った時にはもう俺には生きる気力が湧かなかった。
しかし、俺を含めた様々な人が俺のことを諦める中、一人だけ俺を諦めなかった人がいた。
それが転生した俺の幼馴染であった紫影玲那という少女だった。
彼女は俺とは違う、本物の『天才』だった。
霊力の量は世界で一番多く、剣技も霊力を使った霊術の技量は凄まじく陰陽師としての実力は最強と言っても遜色無かった。
彼女は凶悪な妖を次々と葬り去り、霊獣と言われる陰陽師の味方である奇跡の動物達から祝福を授かるための試練も全て成功させた。
そんな才能に溢れた彼女は霊力を全く使うことのできない俺を最後まで諦めなかった。何回も俺に霊力の扱い方を教えてくれた。それも全て俺には効果が無かったが。
それでも諦めない彼女に何もできない俺は今世は彼女のために生きようと思うことができたのだ。例え何もできなくても俺は彼女のことを悲しんだり、苦しんだりしていたら助けてやりたいと思った。
彼女が俺の生きる意味になってくれたのだ。
それから俺と彼女はいつも一緒にいるようになった。彼女が戦う時には俺は見ることしかできなかったのは自分の惨めさを呪うしかなかったが、それでも彼女と一緒に居た時がこの二度目の人生で一番楽しかった時だった。
しかし、とある日。彼女は遠く出張して倒しに行った妖に自身の体を乗っ取られた。
僅か16歳で日本最強となった彼女の肉体は誰が来ても倒すことは出来ず、誰も妖を倒すことができないまま、妖は次々と街や都市を壊して回った。
俺はまた一人になりただ都市が崩壊したという事実をニュースで知ることしかできなかった。
そして今日、俺と彼女が共に過ごした彼女の故郷に彼女が帰ってきた。しかし、彼女はもう俺の知っている彼女とは変わり果て、俺と彼女の過ごした
◇◆◇
焦げついた臭いが鼻から離れない。
全てが燃やし尽くされた街の中、俺は一人血だらけになった左腕を庇いながら家の塀に寄りかかっていた。
先ほど『彼女』がいた所に行った陰陽師である俺の両親は大分時間が経った今になっても帰ってこない。それどころか、周りを見ても人っ子一人いないような静寂が街を埋め尽くしていた。
皆、殺されてしまったのだろうか。
「玲那………」
左腕の痛みでろくに動けない中、俺はかつての幼馴染の名前を言った。俺が苦しんだ時にいつもそばにいてくれたあの玲那はもうどこにもいなかった。
———ドン!
何かが勢いよく落ちてきたような音が俺のいる周辺一帯に響き渡った。
俺も何が落ちてきたのかと思ってその方向を見つめるととある一人の少女が歩いてきていた。それは俺の見慣れた少女、いつかの憧れ、紫影玲那だった。
いつも俺を見かけたら笑顔で名前を呼びながら駆け寄って来てくれた彼女は今は感情を何一つ宿していない無機質な瞳で俺を見つめながら規則的なスピードで俺の方向へ数々の妖を葬った刀を持って歩いてきた。
嗚呼、俺はここで殺されるのだろう。
瞬間、俺は悟った。抵抗しても無駄だと分かっていたから特段逃げたり叫んだりはしなかった。
「……………?」
彼女は俺の目の前に来た時、ただ何も動かないで俺のことを見ていた。殺すことはないのだろうか。俺は彼女の顔を見つめ直すと彼女の口が小さく震えた。
「こ………ろ、し……て。」
その小さな彼女の呟きとは反対に俺の心臓の部分に勢いよく彼女の持っていた刀が突き刺さった。
「ガッ!!」
衝撃、痛み、そして彼女が口にした言葉への驚愕。だが、彼女はまだ目の前で苦しんでいる。
そして、突き刺さった刀から何か俺の体を突き抜けるような感覚だった。それは傷の痛みとは対照的に優しくて暖かくて力強いもの。
(これが…………霊力?)
俺はその時になってようやく、霊力というものを自覚できた。その力の感覚を掴むことができた。
俺は朦朧とする意識の中、彼女のことを見つめ続けた。
彼女は真顔のままただ一粒の涙を流して立っていた。
やはり、『彼女』はこの肉体の中でちゃんと生きている。
「ま………って、ろよ。お前は、俺が………必ず……こ、ろ——」
瞬間、俺の意識は暗転した。
俺が初めてこの世界で彼女に頼られた瞬間に俺の意識は尽きたのだ。
だが、彼女の願いを叶えるために何度でも生まれ変わってやると決意した。
そして———
◇◆◇
(ここはどこだ?)
俺が次に覚醒した場所はどこかの家にある乳母車の上だった。
———俺はまた、新しい人生が始まった。二度目の人生の100年後の世界で。
—————————————————————
お久しぶりです。
新作です。
いつか君を殺す物語 @aka186
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