徴候
「標的の首を確認。依頼達成、報酬だ」
斡旋者から大金を受け取り、思わず笑みが溢れる。
「あぁ、金額を確認した」
「ではまた三日後以降に」
「なぁ、その決まりなんとかならないのか? こっちは金に困っているんだ。毎日でも稼ぎに行きたい」
一つ依頼をこなすと三日は待機の必要があるなんて、不便過ぎる。これさえ無ければ調合師なんてせず、より多くの金を手に入れられるのに。
「何度も言っているだろう。規定なんだ」
「組織の存続や所属者に関わる危険性を考慮して、だろ? こんな非道な組織がよくそんな真面目な事を言えるよな」
「嫌なら辞めてもらっても構わない。抜けても罰則が無い所なんて他にないだろうけどな」
「……分かった。また三日後に来るよ」
報酬を受け取った後、血の匂いをきちんと洗い流し、服装も普段のものに変える。誰がどうみても裏で人を殺めているなんて思われない格好になり、堂々と兄さんの待つ家へと戻った。
「ただいま、兄さん」
「おかえり、ロージェ」
「ほら、薬。 ここに置いておくね」
「あぁ、いつもありがとう。 でも無理はしないでおくれ」
「大丈夫だよ」
人の命を奪っているというのに、変わらず平然な顔をして受け答えをする。
「明日も遅いのかい?」
心配ばかりかけてしまって本当に申し訳なく思う。
「いや、明日は日が落ちない内に帰れそうだよ」
「そっか。良かった。あまり根詰めては駄目だよ」
「ふふっ、さっきも聞いたよ。じゃあ、俺はもう寝るよ。おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
今日は夢を見なかった。これが良いことなのか悪いことなのかも分からないが。
目を覚ますと兄さんは先に起きていて、窓の外を黙って眺めていた。
「おはよう」
「おはよう、兄さん」
何てことのない、いつものやり取り。あとどれくらい出来るんだろうか。何故かそんな不安が急に押し寄せてきて、思わず涙ぐんでしまう。
「どうしたの?」
兄さんが慌てて問いかける。目の前で弟が泣き出したらそうなるのも当然だろう。
「ごめん、なんでも無いんだ」
「……そっか。何かあったら言ってね」
「うん、ありがとう」
今までこんな事はなかったのに、どうしてだろうか。
ふと老人から受けた呪いのことが頭に浮かんだが、流石に関係はないだろう。報復としてはあまりにも弱過ぎる。
「じゃあ、行ってくるよ」
「あぁ、行ってらっしゃい」
とりあえず些細なことは頭の隅にでも置いておこうと思い、また街に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます