詛呪
街へ着くのは太陽が真上に浮かぶ頃だ。相変わらず遠過ぎる距離だが、これくらいが丁度良い。世間から離れた場所であるからこそ、俺たち兄弟は平和に暮らしていける。
薬草師ギルドに着き、日中の業務をこなす。薬草の栽培、販売、薬の調合。いつもやる事が決まっている割に儲けがいいが、これだけじゃ足りない。これだけじゃ兄さんの命はすぐに尽きてしまう。
「ロージェくん、この間の話なんだが……」
帰り際、ギルド長が話しかけてくる。金が欲しいだけで長く居続ける俺に次期ギルド長の話を持ちかけ続けているが、生憎そんなものに興味はない。
「申し訳ないですが、兄を待たせているので」
その場凌ぎの言葉と共に急いで走り去る。俺はもう一つの仕事を全うしなければならない。
日が暮れた頃、月の明かりも届かない曇天の夜。暗殺者ギルドの拠点に辿り着き、依頼内容を伺う。
「西方の海岸、崖の先の小屋。標的は自称
斡旋者は淡々と説明をするが、その中に一つ引っかかる言葉があった。
「自称
「依頼人がそう言っている。何があったのかは知らんが騙されたりしたんだろう」
「そうか。まぁ金が貰えればなんでもいい。行ってくる」
依頼を受注し、早速標的の元へ向かう。
標的が目の前で命乞いをしようと容赦はしない。それが仕事であるから。
そうやって幾人の命を奪っていき、報酬を得て自分の糧にしてきた。そして、兄さんの命を繋いでいる。
「頼む、ワシはまだ死ぬわけにはいかんのじゃ……」
老人は生き残るため必死に御託を並べている。
「……こっちも仕事なんだ。これ以上あんたの言い分を聞くつもりはない。恨むならあんたが騙した奴を恨んでくれ」
「ワシは騙してなんかいない! 正しい術を施しただけじゃ! ワシの力は本物なんじゃ!」
泣こうが喚こうが俺のやることは変わらない。老人の言葉を聞き流し、暗器に手をかける。
「待ってくれ! 待っ……」
勢いよく首を刺すと、じたばたと暴れていた身体は忽ち動かなくなる。しかし、首を獲ろうと身体を起こした瞬間、老人が俺の腕を掴み口を動かし始めた。
「や……ってくれた……な」
仕留め損ねたのは不本意だが、狼狽えはしない。もう一撃を加えようとしたその時、掴まれた腕が燃えるように熱を帯び始める。
「せめてもの……抵抗じゃ……。 お前に『投影』の呪いをかけた……。これから誰かを殺める時、この呪いがお前を苦しめるじゃろうて……」
最後の力を振り絞ったのか、か細い声でそう伝えると今度こそ事切れる。
「おい、何を言っている!」
返事はない。今度こそ息絶えたようだ。暫くその場で身体の異変を確かめたが、異常はない。何だったんだろうか。俺が受けた呪いはどういう影響を及ぼすのだろうか。一抹の不安を残しながらも、老人の遺体を処理して外に出る。
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